第16話 どエルフさんとそれを売るなんてとんでもない

「もう、ひどい目に合ったわ。コーネリア、貴方って結構腹黒いことするのね」

「いえ、私は純粋に、モーラさんに似合うと思ったんですよ」

「本当かしら?」


 本当ですよ、信じてください、と、エルフ娘に謝る女修道士。


 一点の曇りもないシイタケお目目がエルフ娘を見ている。

 この目が嘘をついている目ですか、と、言外に訴えかける視線である。


 まぁいいわとエルフ娘がため息を吐く。


「まぁ、若い娘が着るような服を似合うって言われるのは、悪くないかもね」 

「いえいえ、若くない人が着るから似合う破壊力が高いんじゃないですか」

「おい、調子乗るなよ、三十年も生きてない女ヒューマンが!!」


 冗談ですよ、と、また笑ってすます女修道士。

 すっかりともう、彼女のペースである。


 そんな二人を仲がいいなと眺めながら、男戦士は店主に声をかけた。


「すまないな、買いもしないのにいろいろと試着させてもらって」

「いやいや良いんだよ。実際に装備しないと勝手はわからんからな。どうぞゆっくりじっくり選んでくれ」

「かたじけない」


 気前のいい店主だな、と、感心する男戦士。

 そんな彼を残して、おっとすまない、ちょっとバックヤードに行ってくるよと、店主がカウンターを離れた。


 再びやいのやいのと言い合う女エルフたちに視線を向けた男戦士。


 ふと、そのとき――フルプレートアーマーが並べられたスペースの奥、人の背丈と同じくらいの妙な切れ込みがあるのに気が付いた。

 あきらかに、それは、隠し扉。


 そんなものを見せられては、冒険者としての本能が疼かないわけがない。

 店主が帰ってきそうにないのを確認して、そっとティトはアーマーが陳列された裏へと回ると、その隙間をそっと開いた。


 いったい、店主はこんなものを作って、何を隠しているのか。


 かすかに差し込む光の中、そこに見えたのは――いつぞやのビキニアーマー。

 そしてなぜだかそこには麻袋で作られた、女性のものと思われる頭がのっかっていた。


 どうしてだろう、その人形の面影になぜか既視感を覚えて、男戦士が首をかしげる。


 金色の髪。

 麻袋に白粉を塗りたくって作られた白い頬。

 そして、側面についている、尖り、白く、細長い耳。


 ふと言った、値札には、先日よりも0が一つ多くなっている。

 また商品名のところにも二重線が引かれ、代わりに、「エルフの生鎧なまよろい」とよく分からない文言が書かれていた。


「――まさかな」


 ゆっくりと、隠し扉を閉めると、元いた場所へと戻る男戦士。

 すると、ちょうど彼が席に戻ったタイミングで、店主が籠を片手にカウンターに戻ってきた。


「お嬢さんたち、すまないが、一度着た服はこの籠の中に入れてくれんかね。一応、売り物じゃからのう、また並べる前に洗濯せねば」

「あぁ、すみません。私たちったら、つい、はしゃいじゃって」


「なになにいいんだよ。ちょっとくらい汚れておった方がプレミ――かえって味が出るというもの」


 なんといっても大事な商品じゃから。

 そういった店主の顔は、なぜだか、妙にほくほくしていた。

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