第9話 どエルフさんと信仰

「教会の修道女シスターがオークにさらわれるとは。いやはや世も末だなぁ」

「神の加護もあったものじゃないわよね」


 まぁ、オーク相手じゃ威光もなにもないか、と、苦笑いするエルフ。

 教会から出てきたのは、エルフ娘と男戦士、いつもの二人だ。


 彼らは、ギルドで受けた依頼――さらわれた修道女シスターの救出――について、依頼主の元に情報収集に来ていた。


「しかし、布教の途中で立ち寄った街が、たまたまオークの襲撃にあうとはな」

「村人を庇って、一人犠牲になった修道女シスターねぇ」


 私ならごめんだわ、と、女エルフ。

 自己犠牲の精神は尊いものではないか、と、少し顔をしかめた男戦士に、残念、エルフには神はいないのです、と、悪戯っぽく返してみせた。


「なんでも擬人化して考えるのが人類ヒューマンの悪いところよね。自然は自然、そこに人格なんてものは宿らないのよ」

「ほぅ、意外だな、君がそんなこと言うなんて」

「なんで意外なのよ?」


 これで結構、現実主義者を自覚しているエルフ娘。

 それらしく振舞っているつもりだったが、何か変なことでもしただろうか。


 すると、男戦士は背嚢の中に手を突っ込むと、一冊の本を取り出した。

 その表紙には、彼らが住む地域の言葉で、こう書かれている。


「失われた楽園――神々に追われた彼ら――」

「ちょっ!? ティト、それ、いったいどうして!?」

「前にモーラさんが読みながら寝てた時に、ちょっと拝見してな。何事も勉強かなと思って、こっそり読んでいたのだ」


 顔を真っ赤にする女エルフ。


 それは、女エルフが、ひっそりと愛読していた、ちょっぴり過激な恋愛小説(♂×♂モノ)であった。


「内容はよく分からないが、『男同士だからなんだってんだ。男にだって、愛を受け止める穴はあるんだよ』の、ところで意味もなく泣きそうになったよ。きっと高等な比喩か何かなんだよな?」

「やーめーてー!!!!! おーねーがーいー!!!!!」

「その恋を咎められ、神から楽園を追放された二人。こんな本読むのに、神様を信じていないなんて。ちょっと意外だな」

「ちーがーうーのー!!!! ほんと、これは、その、友達からの借り物なだけで!!!!」


 照れなくてもいいじゃないか、と、男戦士。

 照れてるんじゃないの、と、顔を隠してうずくまるエルフ。


 もし、神がこの世にいるならば、今すぐ私をこの場から消し去ってくれ。


 女エルフは羞恥に耐えながら、そんなことを思ったのだった。


「いや、読むからこそ、神を信じていないのか。なるほどまったく奥が深い。流石だなどエルフさん、さすがだ」


「もーやーだー、こーろーしーてー!!!!!!!!」

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