第二章 聖女の名はシコりん

第10話 どエルフさんと経験値

「――馬鹿な!?」

「村を襲ったオークの大群が既に全滅してる!?」


 ギルドで受けた依頼により、修道女シスターをさらったオークの群れを追っていた戦士とエルフ娘。

 そんな彼らが辿りついたのは荒れ山の麓にある小さな洞窟。

 オーク達のあじとと聞いていたそこは、今、天に尻を向けて前のめりに倒れる、オーク達の屍で満ちていた。


 それだけではない。


「なに、この匂い。まるで栗の花のような――」

「モーラさん、言わなくても、そこは分かるよ。うん」


 えっ、そうなの、と、エルフ娘が驚いた顔をする。

 戦闘についてとエロいことしか頭にないだろうこの男が、栗の花の匂いを知っており、なおかつこの匂いの正体に心当たりがあることに、彼女は素直に感心したのだ。


 まぁ、エロ知識だから知っているのだが。


「しかし妙だ。それにしたって、辺りが綺麗すぎる、とても事後とは思えない」

「事後? 事件の後って意味?」


 まるで分かっていない感じで戦士に尋ねる女エルフ。


 この女エルフ、エロいことには何かと縁があるが、そういう経験や体験には、まったくといって縁のない、おぼこエルフ、である。

 栗の花の匂いも、事後の意味するところも、まったく察していなかった。


 当然、そんな彼女を尊敬している戦士だ。相応しくないのその反応に、はて、と、首を傾げた。


「モーラさん、からかってるのか? オークにさらわれるってことが、どういうことか、君も知っているだろう?」

「えっ!? ――あぁ、うん、もちろん、知ってるわよ」


 と、言いつつも、戦士からは視線をそらす女エルフ。

 もちろん、そんなこと、処女の彼女が知るわけもない。


 ひとしきり、なんだろう、と、考えて、一言。


「た、食べられちゃうとか?」


 無難な発想で答えたエルフ。

 幸いにも、彼女の答えは、まぁ、そういう風に言うこともできる、ものだった。


「まぁ、確かに、その通りだけれど。けど、ただ食べられるだけじゃないんだぞ」


「うんと――丸呑みとか?」

「丸呑み!?」


 なんだって、と、戦士の顔が強張る。

 それはいつも、エルフ娘が知らずにエロいことを言ったりしでかしたときに、彼がとる表情であった。


 が、自分が何を言っているのか分からないエルフ娘に、それは分からない。

 むしろ驚いた表情を戦士が見せたことに、、と彼女は不要な警戒を覚えた。


 そして、それが更なる誤解を生む。


「ま、間違えた、あれよね、そう――丸焼きにされるとか?」

「蝋燭攻め!?」


「串焼き――そう、お尻から杭を刺されて、焼かれるとか?」

「お尻に杭!?」


「あれだわ!! 七面鳥みたいにお腹に色々つめて焼くのね!!」

「お腹に色々つめる!?」


 真っ青な顔をして、その場に膝をついた男戦士。

 あれ、と、エルフ娘が無邪気な顔をして首をかしげる。


「あれ、あれれ、もしかして、何か間違ってた?」

「いや、なにも間違っていないよ、モーラさん。そうだな、俺の方が甘く見ていた。相手はなんといっても、残酷なオーク集団だものな」

「まぁ、まぁ、そうよね、オークってそういう生き物だものね」


「オークに囚われる真の恐ろしさ、改めて再認識させてもらったよ。流石だなどエルフさん、さすがだ」

「そ、そうね。まぁ、ティトも食べられないように、気をつけることね」


 予想外の言葉に男戦士の顔がまたいちだんと青ざめる。


 真に恐ろしいのは、エッチか、それとも、無知か。


「――ティト? なんで、お尻押さえてるの?」

 

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