第41話

 なんなんだ、この桃色綿あめは!

 ナオトが横からどなる。

「おめぇ、なれなれしいんじゃ、ボケ!メンバーじゃねぇのによぉ!だいたいそんな台詞は俺が言う台詞だ、こらぁ!」

 かなり、言葉が荒くなってるナオト。でもこの言葉には、ナオトのこいつなりの愛情があるのが感じられたんだ。なんだか俺はメンバーに戻ってきたみたいな気がした。

 そして、ナオトは俺とツバサに向かって言った。

「だいたいよぉ、バンドなんて世の中にどれだけたくさんいると思ってんのよ。自分たちが楽しまなきゃ楽しい音なんて作れないんじゃねぇの?ツバサがいなくてリュウがいい音つくれる訳ねぇじゃんか!」


 俺は、頭を下げた。

「ツバサ昔の話だけど、俺あの時のこと、謝りたいんだ。ずっと心の中で思ってた。悪かったな、ごめんよ」

 はじめて、言葉にしてツバサに伝えた、悪かったと。もっともっとはやく言いたかった言葉。ずっとずっとつかえていた塊。こんなちっぽけな一言では言い表せない気持ち。

 ツバサが上を向いて、何かをこらえてる。

「じ、じょうだん、じょうだんじゃな、ないよぉ。ぼくは、あれがなかったら、いいまいないよ、バンドのメンバーになってないよ」

 まっすぐに俺を見て

「リ、リュウちゃんじゃなかったら、いじめられた、あ、相手を恨んでそれでおしまいだったかもしれないよ。ひ、ひ一人で生きられるようになりたいって思わなかった、ぼくきっと」

 ツバサの言葉は、俺の中で宝物みたいに光って聞こえた。


「決まったね!昔のことは昔のこと、これからはこれから!」

 更紗の落ち着いたトーンの声がその部屋に響いた。

 ツバサが困った顔で聞いた。

「で、でもメ、メジャーデビューのは、話は?」

 更紗は動じない。

「メジャーデビューは、まだまだだって事だよ。だって今ようやくみんな一つになろうって訳でしょ?それに、もう一人メンバーになるかもしれないんだよ!」

 ナオトがへって顔。

 ピンクの頭がぴょんぴょん跳ねた。

「そうだよ、ツバサがいないとリュウもナオトも楽しい音楽にならないんだってさ!とりあえず、わたし由梨花がギターをひきまぁ~す!わたしって天才だから聞くまでもないんだけどね。ギター二本あると厚みでるんだからぁ~~!」

 こいつは、なんでこんなになれなれしいんだ?それに、更紗までメンバー入りを決めてるってのはどうよ?

 由梨花がギターを引き出した。俺たちの一番新しいお気に入りの曲。

 なんと、俺のパートを完璧にこなして自分の音にしてる。ちょっとびっくりしたのは、俺だけじゃないみたい。ナオトもツバサも狐につままれたような顔ってこんな顔のこと言うんだろうな。固まって由梨花の流れるような指を見ていた。弾いた音を聞いていた。


 ゆれるよ、ゆれる、north wind

 待ってるよ、待ってspring wind

 きっと来るよ、きっとsouth wind


 音が弾けて俺の胸に飛んでくる。

 俺の音とは違った、また魅力的な音だ。

 更紗も歌いだした。


 飛ばされないよ

 迷わないよ

 立ち止まらないよ 


 ここにいるよ

 手をのばしてsweet wind


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