第40話
本心じゃない。だって、こんな長い台詞、どもりもせずにツバサが言える訳ない。
この台詞は考えておいた、用意しておいた台詞だ。
メジャーデビュー、ツバサいつも夢見てたじゃないか。
「俺ら、あんなおやじの話なんかにのっからねぇぜ!なのにバンド辞める必要あんのかよ!」
ナオトはまた、どんどん熱くなってきてる。
俺はここんとこの、何にもできない自分の話をした。
今話してしまわないと、きっと一生話すことができないような気がしたから。そして、それはどんどん俺の中で黒いしみになって残っちまいそうだったから。
「俺はさ、ライブ終わってから何にもする気が起きなかった。一つには、俺らのバンドは最高にいい出来だった。だけど、ほかのバンドってめっちゃうまくなかった?メインはさ、プロだからしかたないけどさ。タケたちのバンドだって、もう一つのバンドだって、すげぇいい音出してた」
ツバサの目の色が変わった。
「そ、そんなこと、な、ないよ!ぼ、ぼくは、ううまくないけどリュウちゃんはあの中で一番、か、かっこよかったよ」
俺は、息を思いっきり吸い込んで次の話を始めた。
「それからもう一つ。ライブ会場にツバサのねえちゃんが来てたんだ」
驚いたツバサの顔。胸の中でじんわりと悲しみが広がってゆく。
「弱虫のツバサの事、心配してた。頼もしくなったって言って笑ってた。だけど俺は昔のことツバサと話したこと、無いんだよな。あの頃のこと俺、言葉にできないでいつまでももがいてる。思い出すだけでここんとこが痛くなるんだよ」
俺はシャツの胸のとこを右手で掴んだ。
「俺はさ、いつまでもいつまでも、過去の自分から逃げてるんだよ!そんなやつにさ、人の心に届く音なんてつくれる訳ねぇよな!そう思うとギター握るの怖くなっちまってさ」
不覚にも涙があふれそうだった。中学の頃から一度も触れたことの無い、逃げてきた俺の過去。
俺の中にある自信やうぬぼれやそんなものが、崩れて行くのをこの数日感じていたんだ。
音がつくれないって思った。曲なんてうそっぱちだって感じた。
俺なんてこんなもんだって、バンドのメンバーに会えないって、そう思うとどうしていいのかわからなかった。
「ばっかじゃないの!」
ぴんくの頭がゆれてまっすぐに俺を見据えている。
「過去の自分が嫌いなら嫌いでいいじゃんか!その自分がいるから今の自分がそれを踏み台にしてのし上がってきたんだからさ!そんなのがないやつは、それだけの厚みの無いやつにしかなんないんだからさ!」
由梨花は、うっすら目に涙をためて俺を見て大きな声を出した。
「自分ばっかつらい過去しょってるなんて、うぬぼれてるよ!」
由梨花は自分の胸を叩いて
「わたしはさ、八方美人でさ、人と違う意見なんて言えなかったのよ。嫌われるのがいやでさ。だけど、更紗は違ってた。人にどう思われようと自分の感じたことが一番だった。わたしはさ、更紗になりたくてなりたくて、かわりたくてかわりたくて、でも変われない自分が大っ嫌いだったのよ、ずっと」
更紗が由梨花を見つめていた。
「でもさ、更紗に忘れられちゃうって思ったとき、すべてを飲み込んで自分を越えれるかもしれないっておもった」
由梨花は、俺を指差して大きな声で言った。
「今さ、今まで言えなかった事、言えたじゃんか!今さ、今越えたんだよ、リュウ!」
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