第35話
とりあえず由梨花の事知らせに来てくれたんだもんね、ちょっと嬉しかったんだあたし。
話すことも思い当たらなかったから、福島で由梨花に会ったこと今朝帰ったことなんかをポツリポツリと話した。
へたくそなあたしの話を興味深そうに美奈は聞いていた。なるほどって感じで。
もう一度、玄関のベルがなった。
今度は由梨花だって確信があったから、部屋から飛び出した。美奈もそう思ったらしく二人して、階段を下りていった。
ドアを開けるとピンク色の綿菓子みたいな頭がゆれて笑った。
「もう~~、一緒に連れてってって言ったのに~~さらさのあほ!!」
柳美奈があたしの後ろで、意外にも声を上げて笑っているのが聞こえた。
あわてて、ママが来る前に由梨花を部屋に入れた。ママが来る前に紅茶を取りに行って由梨花が来たけど刺激しないように入ってこないように頼んだ。
だって、ママの中じゃピンク頭の由梨花は由梨花じゃないだろうからね。どんな言葉が飛び出すかわかりきってたし。
ママはうなずいて「じゃ、しばらくしてから連絡することにするわね、ママこれからお友だちと演劇を見に行くんだけど大丈夫かしら?」って
ラッキー!パパはゴルフであたしが帰ってくるのと入れ違いに出て行く音が聞こえてたからいない。
由梨花がなつかしそうにあたしの部屋を眺めてる間に、ママが出て行く音がした。
柳美奈は、話を聞いていたからか由梨花の頭を見ても驚いていなかった。由梨花は昔と違って、天真爛漫って感じで『なつかシィ~』を連発してた。
「どうして家出したの?」
あたしがどうやって話し出そうか考えてる間に柳美奈が、か細いけどしっかりと質問した。
「ん~~、っていうかどうしてあなたがここにいるワケェ~?」
落ち着いた美奈にピンクの頭を振りながら答える由梨花。
「私の家に心当たりはないかって、あなたの両親から連絡があって父から探してあげなさいって言われたからよ」
まっすぐに見つめる美奈に、鼻息も荒く
「わたしはね。あなたに言われたでしょ、八方美人は本当の友だちもできないよって。だから、自分の気持ちに正直に生きることにしたの」
美奈はうなずいて
「ふ~ん、素直なのね。いいことだわ。で、どうして家出したの?」
柳美奈は、やっぱ弁護士の娘だわ。
「あのね、柳にはわかんないでしょけどね。心を揺さぶられる音楽に出会っちゃったの!わたしは」
そうして、あたしのほうを向いて由梨花は瞳を輝かせた。
「ライブハウスにわたしがいたの、わかんなかったの?更紗って声かけたのに、聞こえなかったの?」
ああ、記憶の片隅によみがえってきた由梨花の声。興奮して何か大切なことを忘れてた気がしてたのは、由梨花の声だったんだ。
ライブの時、高鳴った胸をかかえてスポットライトから暗い場所に消えるとき、『さらさ!』って声がした。振り向くと遠くのほうでピンク色の綿菓子が揺れてた。でもそれが何なのか、あたしは考えることをしないでぼーっとしたままステージを降りちゃったんだ。
そうだ、あれは由梨花だったじゃない。暗い中でゆれて手を振ってた。今、目を閉じると後ろのほうの壁に揺れる由梨花の姿があった気がする。
「ごめん、どきどきしてて、忘れてた」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます