第34話
大変になったとたん、そんな言い方するなんてサイテーだよ。
なんだっけ?家出?由梨花が?
ええと、あたしに会いに来るって?
昨日、会って話したときには時間がないって言ってなかったっけ?
脳裏に由梨花の姿がにって笑って、ピンク色の髪の毛がゆれて踊った。
そうだ、なんだっけ。
声を聞いた。由梨花の声を。
だけど疲れてるからか、あたしの頭はまた停止した。
そうして、深くてあまったるいももいろの綿あめみたいな夢の世界に落ちていった。
夢の中で由梨花が言った。
『ねぇ、ピアノの連弾しようよ!あとそれから、ピアノのコンクールもうすぐだよ!練習しようよ、課題曲できるようになった?わたしは更紗みたいに簡単に弾けるようにならないんだよね。たくさん練習しなくちゃだめなの。自由曲はどうする?決まんないとでられないよ。どうしよう?ねえ、更紗どうしよう?』
夢の中で由梨花が困っていた。
遠くのほうで、音がした。ええと、この音はそうそうドアのチャイム。
ああ、誰かが来たんだ。
あれ、由梨花?由梨花があたしの家に来るって言ったって?そうだ、家出したって言ってた。電話があったって。
あたしの身体の中の血が熱くなってかけ巡るのがわかった。頭がしゃきっとなって、あたしは跳ね起きた。遠くのほうでママが廊下を歩く音がした。
あたしはあわててドアを開けて階段を下りた。
「更紗ちゃん、お友だちよ」
ママはあたしに優しい微笑みで答えた。
お友だちって由梨花じゃんか、ママったら由梨花の顔忘れちゃったの?あ、そうか髪の毛があんな色してるからわかんないのかな?ほんとにわからないのかな?
あたしはあわてて、ママの横を通り抜けはだしのまま玄関から外に顔を出した。
「ごめんなさい、ちょっと話したいことがあったの」
小鳥みたいなその声、それは由梨花じゃなくて柳美奈だった。相変わらず、声が小さくって元気なさそう。
「外に出られる?」
柳美奈は、まっすぐにあたしを見た。外に出てる間に由梨花が来ちゃたらどうする?そう思ってあたしは美奈を部屋に入れることにした。
不思議な顔をしながら美奈は部屋の中を眺めながら入ってきた。
「意外にきれいにしてるのね。それに、さっぱりしてて男の子の部屋みたいね」
くすくすと笑った美奈は、学校で見るよりかわいかった。薄いコートの下は水色のプリーツスカートとフリルのあるグレーのブラウスが大人っぽくてかわいかった。
ママは由梨花以外のお友だちの出現にニコニコ顔で紅茶とお菓子を持ってきた。柳美奈はきちんと自己紹介なんかしたから、ママの評価は満点に近かったにちがいないな、きっと。
「で話っていうのは、由梨花が家出したって私の家に電話があったの。あなたの家にきっと行くだろうから知らせておくべきかと思って。それだけなんだけどあなたたちって不思議な存在だったし、ちょっと興味があったから来てみたわ。おうちに入れてもらえるとは思ってなかったけどね」
そういうと、美奈はあたしの部屋をもう一度見渡した。特に本棚には目が留まったみたいで、『あなたが興味持てるものなんて読んでないよ』と心の中でつぶやいたけど口には出さなかった。
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