第31話


 タケにも俺、悪いことしてたんだな。


 更紗は、たんこぶを冷やしながら由梨花に会った話をした、うれしそうに楽しそうに。

 それが俺の気持ちを静めて優しいものにしてくれた。

 まずいことに、更紗のたんこぶは結構な大きさになってた。

 「切れてたら流血もんだったね」って更紗は笑い飛ばしてくれた。俺の心はめちゃめちゃ痛かったけどね。

 ツバサが薬局で氷嚢と氷を調達してきてくれた。冷やすと、更紗は「寒くなるよ」って震えてた。


 じきに会場だ。ライブ会場に客が入ってくる。更紗のたんこぶは少し小さくなっていて

「もう平気だよ、それよりみんなしっかりやろうね」

 少し緊張した表情は、きりっとして澄んだ瞳が輝いていた。

 三人とも、そんなことの後で緊張することを忘れてたみたいだった。しっかりしてるのは更紗だったみたいね。こいつ、俺らのバンドには必要不可欠な存在になってるよな、もう。


 いよいよ、会場のざわめきが聞こえるスタンバイの部屋にうつる。

 俺らのバンドがしょっぱなを飾る。三曲演らしてもらう。

「どどきどき、ししちゃうね~」

「たいした大きさの場所じゃないから大丈夫だよ。あたしもっと大きなホールでピアノの発表会やったけどたいした事なかったからさ」

「でも、『DIGGIY ZOON』とか俺たちの演奏聞いてんだぜ!」

 ナオトは、あくまでもそこんとこが重要みたいね。

「まあ、ロータリーで演るのと変わりないさ!」

 俺は自分自身に言った。

 そう、俺たち目的で来たやつらじゃないけどそいつらに俺らの音が届けばオーケー、響けば大成功って感じじゃないの?

「まあ、気合も気持ちも入れて行こうぜ!いつもみたいにさ!」

「おぅ!」

「うん!」

「わわかった!」

 俺らはひとつだった、確かにその時。


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