大好きな友だち

第27話

      再会    ~さらさ~


 福島までの車の中は、まるで小学校の遠足みたいだった。みんな年上には思えないほど、幼稚で気楽で優しかった。

 車の中で不思議な話を聞いた。

 ツバサをリュウが中学生のときに、いじめてたって。

 そこにいろんな気持ちが絡まりあってるみたいで、あまり人の事に興味を持たないあたしが二人の心の中をのぞいてみたいって思ったの。

 彼らには彼らだけにしかわからない何かがあるのかもしれない。でもちょっとでいい、その気持ちわかりたいと思った。その時を乗り越えて今目の前の二人がいるんだものね。

 その気持ちがあったからの二人なのかもしれないなって、かってに思ったりしちゃったんだ。

 人の気持ちも感じることも、わかった気がしてても本当はわかんないものなのかもしれないって。

 ふと、由梨花の顔がちらちら浮かんできたりした。


 車はもうすぐ福島に着こうとしていた。


 町の大きさは思ったより都会だった。周りに山が見えてるけど空気がきれいとか、そんなには感じなかった。ビルが立ち並ぶ中に入っちゃったら、東京だって言われたってわかんないなって思った。でも、来たんだって胸いっぱいに気持ちは広がってた、たぶんみんな。

 ライブハウスっていうのはビルの地下にあって、ちょっとしたレストランくらいの大きさの店だった。

 あたし達四人が拡がってちょうど位のステージがあって、二メートルくらい先に客席になるらしくポールが立っていてロープがはってあった。ステージに上がってこれないようになんだろう。

 あたしは小さな体育館みたいなのを想像してたから、暗い客席を見つめてたいした事ないなって思っちゃたんだ。

 うん、駅前でライブとそう変わらないじゃん。


 三曲リハーサルをして、まずまずだなって事でみんなで昼ごはんを食べに外に出た。

 ライブが始まるのは夜の六時半くらいだから、時間は十分にある。

 あたしは由梨花の家の住所の書かれた紙を握りしめてメンバーに手を振って、店のドアを開けて町に出た。


 今日はいい天気だった。遠くの方の山は薄く空に浮いて見えた。でもやっぱり、町の様子はあたしが住んでる町とそう変わりないよ。商店街の裏はもう住宅が広がっている。

 パソコンで調べておいた路地をぬけると、あった。

 ナオトにもらった紙に書いてあった住所のマンション。四階建てのこじんまりした建物のベランダには洗濯物が風に吹かれてサワサワゆれている。

 あ、ピアノの音が流れてくる。由梨花かな、この音由梨花なのかな。

 そう思ったけど、ピアノの音はバイエルンだった。

 一生懸命がんばって練習してる音。まだまだ、曲が弾けるのが楽しくなってきた頃のふわふわした旋律。

 あたしは、ポストの苗字を確かめてぎゅっと手を握った。

 会えるかもしれない、由梨花に会えるかもしれない。そうだ、会ったらなんと言おう、まだ何にも考えてなかったよ。

 本当に会えるかもしれないと思ったら、胸がどきどきしてきた。エレベーターの前でボタンを押そうとしたまま考えていると、チンと音がしてエレベーターの扉が開いた。

 中からあたしの肩めがけてピンク色の髪の毛が突進してきた。つんつんとディップで固められた頭は化粧品の匂いがした。

「いたっ!」

「ごめん!」

 二人同時に声を出した。

「えっ」

「はっ?」

 もう一度二人して声をあげた。

 あたしがわかったのと同時に相手もわかったらしかった。

 信じられなかったけど、ピンクの頭は由梨花だった。

 あたしは、驚いて声が出なかった。

「さらさ、どうしたの?こんなとこまで何しに来たの?」

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