第26話
俺たちの音
福島の市内にあるライブハウスは、すぐに見つかった。ちょっとした路地を入ると意外に大きな看板がかかっていた。
その前のホワイトボードには
『DIGGIY ZOON、らぶすねぃく、他』
と書かれていた。
「俺たちって、やっぱ他ってやつよね~」
ナオトが覗き込んで、面白い顔をした。
『DIGGIY ZOON』のベースはナオトの兄貴だ。この間、テレビにも出たって聞いたけど見てないし曲もまだ聴いたことはなかった。
ナオト的には、人気急上昇中だそうだ。俺はそういうことにはうといから、良くわからないけどね。
「これが、かっけぇ~のよぉ~!」
ナオトの感性は信じられるんだけど、こと兄貴が絡むと理性を失うから自分の耳で聞いてみないことにはわからないな。
「へぇ~~、た楽しみだな~、はやく聞きたいな」
ツバサがぽわんとした顔をする。
「あのねぇ~、聞く前にあたしたち演奏するんだと思うよ!わかってんの?」
更沙の言葉に、急に顔色が青くなってるよツバサ。しっかりしてくれよ。
俺たちは、午後六時半からのスタートには十分すぎるくらい前に楽屋に入れてもらった。
まだ、誰もいない狭い楽屋に、とりあえず荷物を入れた。
もう一つのグループと一緒に一部屋でスタンバイという事だった。
とにかく、メインのアーティストが使うリハの時間以外でリハーサルしておいてくれという事だったので、まだ昼前だったけどリハ演奏してみる事にした。
とっかかりはまずまずだったし、みんな疲れてるのも忘れて演奏した。その頃には関係者の人がぽつりぽつりと現れたり消えたりしていた。
一通り演奏も出来たし、俺たちは町に昼飯を食いに行く事にした。
「俺ら、客のいるライブハウスで演奏するんだなぁ~」
オムライスの大盛ってやつを注文して、半分食べたところでナオトが宙を眺めながらつぶやいた。
「でで、も僕たちが目当てじゃないからお客さんたち。聞いてないかもしれないよ」
ツバサにしては、めずらしく落ち着いた意見だ。こっちは普通のオムライス。めちゃくちゃ小さく感じるけど、ツバサこれで腹一杯になるのかね。
「そういうやつらに、聞かしてやるんじゃんか!びっくりさせてやるんじゃんか!」
意気込みが違う更沙は、そうかこれから転校していった友だちに話をつけに行くんだっけ。
更沙の食べているスパゲティーカルボナーラはうまそうだった。こっちにしたほうが良かったかな?
「それ、一口くれない?」
ぺペロンチーノを食べながら俺は、更沙の方に手を伸ばした。
「やだ!自分の食え!」
こいつはけちだねぇ~。
「けち!おまえさぁ~、なんか戦闘モード入ってねぇ?そんなんじゃ、うまく話せねぇよ~」
「ふん、一口だけだからね!」
「お、さんきゅ~、まあ相手の話を聞くつもりで行けよな。詰問は無しな!」
やっぱ、カルボナーラにすれば良かった。
そこから、通り三本くらい西に行ったところのマンションに更紗の友だちの由梨花ってやつが住んでるらしかった。いきなり行って、会えるかどうかはわからないが更沙の気持ちが前向きになってるのだけは確かだった。
ゆっくりお茶してる俺らにひきつった笑顔で手を振って、更沙は店から出て行った。
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