第25話

「ふぅ~ん、すごいじゃん」

 更沙の言葉を聞いてツバサが目を輝かせていた。

「そう、そそれまでの僕は自分でも大嫌いな僕だったんだよ。リュウちゃんの影に隠れて助けを求めて生きてたんだ。でも、リュウちゃんはそれじゃいけないって教えてくれたんだよ」

 ツバサが、おしゃべりになった。

 まあ結果的に、そんな解釈もあるかもしれないけど、なぜかその頃の事は思い出すと痛むものがあるのよね。

 ツバサにいらいらしてたのは確かだったけど、自分は何様なのよって俺のどこかで声がするんだ。

 ツバサの良さは、小さい時から一緒だった俺が一番良く知ってるのにってさ。

 いつか、ツバサは気づかなくちゃいけなかったのかもしれないけど、そう考えて選んだ方法ではなかったし、もしツバサが押しつぶされちゃってたら、と考えると身体中が凍りついてしまいそうになる。


「だから、リュウちゃんは僕をちゃんと助けてくれたんだよね」

 くったくないツバサの笑った顔がバックミラーで眩しく輝いてる。

「ふぅ~ん、なるほどね~」

 更沙が窓の外を眺めながら、何を考えてるんだかわからない顔でうなずいている。

 静かにエンジンの音が聞こえている。道は緑一杯の中にまっすぐに伸びている。

 

 ゆれるよ、ゆれる、north wind

 待ってるよ、待ってspring wind

 きっと来るよ、きっとsouth wind


 飛ばされないよ

 迷わないよ

 立ち止まらないよ


 更沙が透き通るような声で歌った。みんな、それを聞いていた。

 もうすぐ、福島だ。


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