第24話
不思議そうに首をかしげる更沙。
「そう、それで終わってたわけよ。リュウ様かっこいいって」
俺の胸の奥で何かがひりひりしていた。
ツバサは臆病で俺の後をいつもついてくるような子供だった。小さい時から、俺はいじめられるツバサをかばってやっていた。
ツバサもそれが当たり前のように生きて来ていたんだ。
中学校の二年生の頃。
俺はもともと背は高い方だったが、どんどん伸びてるのがわかった。
同時に、思春期じゃん。カッコとかつけたがる時期なんだよね。
俺も、背が伸びるし周りの女の子なんかが騒ぐのもいい気分になっていたし。
ツバサは相変わらず、弱弱しくって恥ずかしがりやだった。女子にからかわれるのもしょっちゅうだったし、たまに馬鹿にされたりもしてた。
でも、いつも俺が表に立っていたから守られてる感じだったわけ。
女子はクラスで一番背が高くて、そんなにおしゃべりでもない俺のことを、リュウ様なんて呼び出した。俺も、それなりにカッコつけてたから、いいんじゃんってな感じでリュウ様をやってた訳ね。
俺の中で、ベクトルが狂った時期だったのかもしれない。
俺の横で、おどおどしてどもったりなんかしてるツバサにいらいらしだしたのは、その頃だ。
いじられて助けを求めるツバサに、知らん顔し出した俺はみんなで町に繰り出してはきゃーきゃー言われるのを楽しんでいた。
『ツバサくんって、リュウ様がいないとなんにも出来ないんだよね』
誰かが言った。
俺は、次の日からツバサを無視し始めた。逆にツバサのいじめに参加しだした。
クラスでは徐々に、ツバサのいじめがエスカレートして行ったんだ。
クラス発表の代表には、ツバサを推薦した。人前でどもっちまうあいつの事を知っていたのに。
どもって話一つできないあいつを見て、クラス中で笑ってた。
ひどいやつだったと思うね、思い出すと胸の奥が火傷したみたいにひりひり痛む。
「だけど、リュウ様はツバサがからかわれても助けてくれなくなっちゃうんだよな~。俺、隣のクラスでこいつ、悪魔かと思ったんだぜ~」
ナオトが言った言葉が、俺を貫いた。悪魔、ねぇ。
「そんなことないよ。リュウちゃんはいつまでも一人で生きていけない僕のこと考えてくれたんだよ」
すんなり口から出たツバサの言葉が、さらに俺を一人にさせる。
黙ったまま、握るハンドルが汗ばんでる。景色は明るく遠くの方に山が見えている。
「俺の過去をそんなにほじくって事故っても知らねぇぞ!」
更沙が後ろの座席に深くもたれて
「ふぅ~ん、触れられたくない過去ってやつなんだ」
そうだよ。俺の人生の中であの頃の俺が一番大嫌いな俺なんだから。
「で、なんで悪魔がかわったの?」
更沙が厄介な事を聞き出した。それに答えるナオト、いいかげんにしろよ。
「そうそう、クラスの何だっけ、発表があったわけよ。で、ツバサがしどろもどろで固まっちまってた訳ね。で、悪魔のリュウ様が『何か、言えよ!』って全校生徒の前でどなったのよね~」
ああ、俺は悪魔か。まあ、否定はしないが。
「体育館が、爆笑の嵐って時よ~。死んでたツバサが甦ったのよ」
おしゃべりナオトは、おもしろそうに真剣に話している。興味津々の更沙。
周りの景色は、緑濃くなってどんどんすがすがしさを増しているのに、車の中はひどいもんだよ。
「叫んだのよ。『僕は、ちゃんと一人で立つことが出来るんだ』ってね」
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