第23話
蕎麦にお握りにホットドッグ。まだ食いたそうなナオトを引きずって車に乗せた。
もうすぐ、夜明けだった。東の空が明るくなっていて、澄んだ青空が寒そうに北へ向かう俺たちを歓迎しているみたいに見えた。
冷たい風に当たって、たっぷり睡眠をとったメンバーは、眠気も覚めて新曲を口ずさんでハッピーな空気で車内が満ちていた。
ゆれるよ、ゆれる、north wind
待ってるよ、待ってspring wind
きっと来るよ、きっとsouth wind
飛ばされないよ
迷わないよ
立ち止まらないよ
車内は、大合唱だ。もう、小学生の遠足かっつうの。
「この歌、あたし好き!」
俺の運転席に身を乗り出して更沙が言う。
「こりゃ、どうも。光栄です」
「リュウノスケ、はっきり言ってお前は天才だ!俺らは天才バンドだぁ!」
ナオトは夕べから寝てないのに、大丈夫なのかねハイテンション。確か、酒は飲ませてないはずだけど。助手席に座らせなけりゃ良かった、うるせぇよ。
「いつも、リュウちゃんの作る曲は最高なんだよ!」
こりゃまた、どもってないツバサは、どうしちゃったの?って感じ。
高速は車も少なくて、運転は単調だったけど結構楽しかった。
仲間と一緒の時がやっぱ一番じゃん。この曲はあの時浮かんだんだ。風に吹かれる更沙が菜の花みたいに笑った、あの時。
こいつ、話べたでいろんな事腹の中に思ってるくせに、言葉にできないでもがいてる。
いいや、ってわりきっても何かが動いてる。
そんな自分が嫌いだって思ったり、どこかに自分の居場所がないかってさがしてる。
全部、俺に重なって見えた。
大合唱も終わって、交通情報でも聞いてみるかとラジオをつけたのがやぶへびだった。
『中学生がマンションの屋上から飛び降りたらしく、警察ではいじめで自殺の可能性も調べています』
やべっ。へんなニュースが流れて空気が色を変えた。
「なんで、死んじまうのかね~。死んだ気になれば何だってできるんだけどよ~、そこには気づかないんだよな~やっぱ」
まともな意見だナオト。そこまでにしとけ。
「そうそう、ツバサもひどかったのよ、いじめにあってさ」
ほら、来た。
「そ、そんなことないよ」
「なんで?なんでいじめにあったの?」
ツバサの言葉は耳に入らないのか、更沙はナオトのいる助手席に身を乗り出して聞いた。
「え、ほら、女子ってさ、からかうじゃん、ツバサ結構顔かわいいし、気、弱そうでしょ?で、ツバサがからかわれるとかっこいいリュウノスケが助けてやる訳よ。『やめろよ』ってね」
「そしたら、それで終わりじゃないの?」
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