想いを胸に 北へ
第21話
ワンボックスの車の中で
寝ずに書いた曲が、出来上がった。
なかなかの出来だったが、ナオトのベースがなかなか出来上がらなくて心配した。
ツバサのドラムはさっさとテンポを決めていろいろアレンジを加えていたので心配なかった。更沙はこれまた、まったく不安一つなくコードもアレンジもうまく重なってきた。
ナオトは、考えに考えぬいて走りすぎたり、ちょっとちがうんじゃないかとみんなに言われて落ち込んだりしていた。
みんなが、まあツバサと更沙だけど、首をかしげるのもわかるんだよな。いつも的確なベースに、たまに走るけど落ち着いてかぶさってくるそんないい感じの音出してたからさ。
だけど、ナオトはいつもと違うわけよね。何がかって、今回路上ライブとかと違うから。一番意識してるのは、兄貴に自分の価値を測られちゃうんじゃないかって事。
こいつはかなりの兄貴信者で、小さい頃から兄貴のやる事ばかりを追いかけてきたわけだ。
だから、なおさら兄貴に認めてもらいたいって言うか、少し緊張はいっちゃってるんだよね、きっと。一番上の年の離れた成績優秀な兄貴と、みんなに反発しても自分の道を行く二番目の兄貴。憧れて追いかけて、そんな兄貴みたいなベーシストになりたくてがんばってるナオト。
かっこいいヒーローの前で一緒のライブに立てる。
こいつの気持ちを誰かほぐしてやってくれないかな。俺は、頭を抱えていた。
突然キーボードの不協和音がスタジオに響いた。
「ばかじゃん!なに表に立つことばかり考えてんの?ベースがしっかりしなきゃ、まとまんないじゃん!」
でかい声。更沙がナオトをにらんで立っていた。
「も、もうすぐうまく音出せるよ。し、心配しないで、だ、だ、大丈夫だよ。さらさちゃん」
争うのが嫌いなツバサが、あわてておろおろと情けない声を出した。
「すまん」
ナオトが文句もいわずに謝った。ナオトのふわふわしていた何かが落ちてきた気がした。
「おまえさぁ、いつものままがいい味でてるってわかってんのかよ」
俺が言った言葉を、ナオトは噛み砕いているみたいに口の中でぶつぶつつぶやいていた。
ふっと顔を上げた。
「もう一度、やろうぜ!」
腹が決まったみたいだぜ。サンキュー更沙、今みたいな台詞は俺もツバサも言えないわ。
ナオトはしっかりしたいい表情で、音を泳ぎだした。
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