第19話
音を泳いで ~さらさ~
柳美奈と奏でた音楽の甘い感覚が忘れられなかった。
柳美奈の存在は、あたしの中で大きくなっていった。
そう思って見てみると、柳はいつもどんなに意地悪な事を言われてもたじろがない。しゃんとして背筋を伸ばして、跳ね返してしまうように感じた。
二人で演奏したって事があたしの中であったからなのかな、あたしは柳美奈に話しかけちゃったの。
「どんな、音楽が好き?」
柳美奈は、難しそうな本から顔を上げてあたしを見た。
「なんでも。クラシックは基本、ロックも意外だろうけど聴くわよ」
人に話しかけるなんて、あまりしたことがないから後が続かなかった。
柳は黙ったけど、もう一度顔を上げると
「あなたもそうでしょ?たぶん、好みは一緒だと思うわ」
なんて意外な事を言った。あたしの好みなんて何でわかる訳?あたしがけげんそうな顔をしていると
「由梨花に聞いてるから」
って思いも寄らない言葉が柳の口から聞こえたんだ。
「えっ」
って言ったきりあたしは固まっちゃたよ。だって、由梨花と柳美奈は友だちだったの?一度もそんな事聞いた事がない。話してるとこだって、あたし見た事ないよ。
あたしの驚いた顔を見ると面白そうに柳美奈はつぶやいた。
「もっとも、一方的に由梨花がしゃべってることの方が多かったけどね」
どういうことなんだろう?学校にいるときは、いつでも由梨花は一緒にいたのに。
「親が同級生だったらしいよ。それだけ」
あたしが不思議に思ってるのを、察知したのか柳美奈はくすっと笑った。
あたしが知らないところで、二人は話をしていた?あたしの話を?
「あなたが思うほど、話した事はないわ。たぶん二回くらいかしら、放課後図書室に来て一方的に話をして返事も待たないで消えたからね」
なんの話をしたんだろう、由梨花は。なんの話をしたのか聞いていいものか、あたしが躊躇していると
「思ったとおりのリアクションするのね。あとは、ノーコメント。この本今日中に読んでしまいたいから一人にしてくれるかしら?」
あたしは何にも聞けずに「ごめん」って言って柳美奈の机を離れた。
由梨花は柳美奈を嫌いだって言った。あたしの知らないところで二人は話をしていた。
そうして、由梨花は柳のお財布を捨てた犯人があたしだとみんなに告げた。なんで?どうして?
由梨花のこと、友だちだって思ってた。大切な大好きな友だちだって思ってた。
たくさんの事、聞いてみたい事があたしの中で渦巻いてる。
どうして、由梨花ここに居ないの?このままじゃ、あたし前に進めないよ。
あたしのどこか、気に入らないとこがあったんだったらはっきり言って欲しい。嫌いなとこがあったんだったら教えて欲しい。
なのに、どこにいっちゃったのかもわからないなんて、もう出口が見つからないよ。
気がつくとあたしはぼぅ~っとしてそんな事ばかりを考えていた。家にいても学校にいても、ピアノ教室に行ってさえもその気持ちは強くなるばかりだった。
そんな時、「更沙、お前さぁ~キーボードやらない?」
もう一度頭の中で声が聞こえた。
そうだっけ、そんな言葉をかけられたっけ、すごくすごく悲しい気持ちの時に。忘れてたけど引っかかってた不思議な言葉だった。
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