第18話
由梨花が何を考えて、なんでそんな事をいうのか、本当のことが知りたかった。
だけど由梨花はあたしの声が届くところにはいなくて、今由梨花が何を思ってどうしているのかさえわからない。
そんな事を考えちゃうと、胸の奥で何か熱いものが膨らんできてどうしていいかわからなくなる。
ある日の音楽の選択授業。柳も一緒の教室だった。
ペアを組んで、楽器の演奏をしなくちゃならなくなった。
今まであたしは、必ず由梨花と一緒だったからなんの苦労もなくペアを組んでたし他の子の事なんか気にした事もなかった。
でも、ペアを組まされるって事は、学校生活においてすごく勝負しなくちゃいけない場面なんだって事を思い知ったの、その時。
先生がペアを組んでやってもらおうって、言いはじめた時から教室中がざわめいた。残っちゃいけないってみんな必死で自分の相手を探すの。でも、相手もそこそこ出来るやつじゃなくちゃ困るからいろんな思惑が動いてるのがわかった。
笑っちゃうよね、たかが中学の音楽の授業だよ。
適当に誰かと組めばいいじゃんか。別に、残っちゃったら残っちゃったでいいやって思って見てると、それぞれの気持ちが手に取るようにわかっちゃって面白いくらいだった。
そうして、ほとんどがペアをつくって落ち着いた頃、あたしと柳が残ってた。
「じゃあ、一緒に」
柳美奈は、あたしに向かってそう言って楽譜を渡した。
柳美奈が手に持ってたのは『美しき青きドナウ』だった。ああ、これ昔由梨花と一緒に演奏した事がある曲だ。そう思うと、すごく懐かしく胸が痛んだ。
あたしは自分の出来るのはピアノだけだと言ったら、柳はうなずいてバイオリンを持ってきた。ピアノとバイオリン、ちょっとした演奏会なみの発表になった。
柳は小さい頃からバイオリンを弾いていて、ピアノも出来るって言った。でも、バイオリンが一番好きだって、ぼそぼそとつぶやいていた。
柳と話をするのは初めてで小さい声は良く耳を澄ませなければ聞こえなかったけど、メガネの奥の瞳には意思がはっきり感じられたし、しっかりしたしゃべり方だった。
嫌いじゃないなって思った。
由梨花は柳のことをどう思ってたんだろう。この子は由梨花が嫌うような一面を持っているんだろうか。
ピアノとバイオリンは、いい感じにかぶさって教室に響いた。
単音ではない音が身体に絡みつくのは気持ちが良かった。由梨花がいなくなってから忘れていた感覚。
音楽の発表は終わってしまって、先生からは『ブラボー』なんて言葉までもらえたのは柳効果だったかもしれないけど、もっと演奏していたいな、なんて思ったんだ、その時。心地よかった。
そう、頭の中のどこかでふと声がした。
「更沙、お前さぁ~キーボードやらない?」
なんだっけ?この言葉。
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