第15話

「やっぱ、おまえピアノやってたんだな」

 俺の言葉に、うなずいた。

 スタジオの中で演奏したときの、不思議な空中遊泳を楽しんでいるような表情だった。つっぱっている時の顔とはちがった素の中学生の少女だった。

 俺らは、少しお兄さん的なあったかい気持ちで見つめた。新しい幼いけどたのもしいメンバーを。



 次のスタジオまでは一週間あった。

 だいたい、一週間か二週間ペースで俺らは集まる。

 みんな一応大学生だけどバイトもしないとふところ具合が心配なので、結構時間が作れなかったりするんだよな。

 まあ、ナオトだけは別格だけどね。

 俺は、コンビニで「いらっしゃいま~せ~」とか言いながら賞味期限切れの弁当を楽しみにバイトに励んでいるし、ツバサはピザ屋で最近はピザ生地を作らせてもらえるようになったって嬉しそうに仕事している。

「社会人ってつまんねぇ~よ~」

 っていつも、ぶうぶう文句言いながら親父の子会社でバイトさせてもらってるナオトが一番部のいいバイトなのに、不満顔ってのも面白い話だよな。

 まあ、やる事ってコピーとったりパソコン入力したりって言ってたけど周りはきれいな若いおねえさんが多いみたいだから、不満いうんじゃねぇよ、って感じ。

 俺なんて、男ばっかだし店長のおじさんはおっかないし人使い荒いのよね~。

 ここんとこ、バイトばっかしてると大学の講義中熟睡ってこともしばしばで、やばい。

 そもそも、ギターの練習する時間作るのが一番大変だし新しい曲もつくりたいし。

 そうして、俺らの不満はある一点に向かっていくわけ。

 そう、メジャーデビューして音楽でメシ食っていけたら、って事。特に、ナオトは真剣に最近そう思ってるらしい。そもそもナオトの二番目の兄貴ってのが、あっちこっちのメジャーなバンドに入ったり出たりのやつだから、ナオトは親父の会社なんかじゃなくてそっちで生活したい訳ね。だけど、一番上の兄貴はもうすでに大学出て親父の会社のいいとこでサラリーマンやってて、二番目がそんなだから、親は一番下の末っ子のナオトは絶対に会社に入れときたいみたいでさ。

 親父の圧迫に日夜ビクビクしてるのね。でもさぁ、まだまだ一人で生活できるほど稼げるわけでもないしさ、親のすねかじってる間は仕方ないよね。

 まあ、まずは大学出なくちゃ始まらないって感じっすかね。


 な訳で、一週間後俺らは集まった。

 更沙も時間には来ていた。何の違和感もなく更沙のキーボードはなじんでいたから不思議だ。

 おやおやこいつ、まじ俺らのバンドには必要不可欠だわ。

 そう思ったのは、俺だけじゃなかった。ナオトもツバサも特別な表情で、最高の出来にみんな酔ってた。

 汗ばんできた頃、ツバサはもう汗がしたたるいい男って感じだったけど、持ってきたポカリなんかを飲んで休憩した。更沙もジュースを飲みながら俺の目を見て言った。

「聞いて欲しい事あるんだ」

 もちろん俺は気軽に答える。

「いいぜ!バンドのメンバーの話は喜んで聞くさ」

「みんなを見てて一緒にいたら、あたし由梨花がなんであんな事言ったのかどうしても知りたくなったの」

 ツバサが真剣な顔をして耳を澄ましていた。ナオトが

「そいつの家の事、ちっとは知ってるぜ~」

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