第14話

つぎ、何いく?」

 おれの言葉に二人が宙を見た、その時。

 ドアが開いた。

 更沙が立っていた。

 

 更沙は、ニットキャップをふかくかぶり、よれよれのジーンズは膝に穴が開いていた。

 黄緑色のダウンジャケットをぬぐと、だぼっとしたこげ茶色のティーシャツを着ていた。この間、歩道橋の上で見たおとなしい感じの紺色のコートやチェックのパンツ姿とは、別人みたいに見えた。


「それで、あたしは何やるの?」

 更沙は、初見であの時俺らが演奏していた曲を、キーボードで弾いて見せた。

 ツバサは感激のあまり、

「さ、さ、さ、さらさちゃん、すす、すごい!」

って、お前どもりすぎだぜ。まあ、俺もちょっとは驚いたけどね。

「おまえ、生意気なとこさしひいても、あまりがあるじゃねぇか!少しぐらいだったら生意気でも許してやろうって気になるぜ」

 ナオトは褒めたんだと思う。たぶん。

「冗談じゃないわよ。差し引かないでよ、あたしはあたしなんだから!」

 少しむっとして、だけどナオトをまっすぐに見つめて、更沙は答えた。

 こいつ喜んでる、そう思ったのは俺だけじゃなさそうだった。


 気がついたら、俺らはたいしたバンドになってた。なにせ更沙のキーボードは最高だった。

 曲調をつかんですぐに音にする。簡単なコードからちょっとしないようなコードを使ってみたり、ツバサもナオトも興奮した顔をしていた。

 でも、きっと俺が一番驚いた顔をしていたと思う。

 最初からメンバーだったんじゃないかと思うほど、俺たちの音になじんでいたから。


「どうよ、どうよ?更沙!最高じゃん?俺ら最高じゃん?」

 ナオトがでっかい声で、更沙に言った。

「すすごいよ。さ、更沙ちゃん」

 ツバサが、もっと何かを言いたそうに口をぱくぱくしている。金魚かっつうの!

「おまえ、俺らのバンドのキーボードに任命するぜ!」

 俺もいい気分で、笑った。

 更沙は気持ち良さそうな顔を、こっちへ向けて


「まだ、入ってやるって言ってないよ!」

 おお、そう来ましたか。こいつの性格からして素直にメンバーになるとは思ってなかったけど、やっぱな。

「じゃ、ま、臨時でという事でどうでしょう?更沙くん!」

 仰々しく、俺は更沙に手を差し出した。

 びっくりした顔の二人のメンバーが、息を止めて俺の差し出した手を見つめる。

 それを見て、更沙が少しあせった表情になって鍵盤の上のすっとしたきれいな手を出して俺の手を握った。

「やったぁ~」

「オ~ライ、オーライ!」

 二人の声が喜んではずんだ。

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