少女の瞳
第9話
歩道橋の上から ~さらさ~
歩道橋の下には時折、小型のトラックが走っていく。向こうから現れたライトの色は小さくて悲しくて蛍の光みたいにゆれて見えた。
そっか、あたし泣いてるんだ。ばっかみたい、ライトがゆれて見えるのは、あたしの視界が半分以上水没してるからなんだ。
できたばかりの四車線の道路はまっすぐ駅から延びている。昔は狭い道路わきにベンチがあったんだ。
行き止まりの道には思えないほどりっぱなでっかい道路。ロータリーには家路をいそぐお父さんたちの姿が見えている。
良かった。パパは今日仕事で遅くなるって言ってたっけ。
サラリーマンは、み~んな忙しそうな歩き方だな。しゃかしゃか、音がするみたい。みんなどこから来てどこに行くんだろう?そんなに急ぐのには訳があるのかな。
突然飛び込んできた音が、耳元で弾けた。ギターの音?
なんだろう?あたしは、今までぼぅっとして二重に見えていた目の前の景色に視点を合わせた。
ギターの音、ベースの響き、ドラムの低音のリズムが駅前に漂っていたぼわんという空気を切り裂いた気がした。
あ、路上ライブなんだ。
狭いロータリーのすみっこに三人の人影が見えた。たどたどしい音が流れ出す。
主旋律が聞き取れると、音質の悪いスピーカーから歌が聞こえる。
ふふ、へたくそ。
へたくそなのは、確かだった。
三人とももうちょっと、今一歩ってとこ。
それでもなんだろう、耳障りではなかった。むしろ心地いい。
『さらさ、ごめんね。こんな事になっちゃって』
由梨花の声が耳の奥でくすぶっている。
なんで、こんな事になっちゃたんだろう。
あたしは、ずっとずっと由梨花と一緒にいられると思っていたのに。
二日前の曇り空の日。体育の授業に行く前に忘れ物を取りに行った教室。床に落ちていたピンク色のお財布。
『なにやってるの~早くおいでよ~』
迎えに来た由梨花があたしをつっついたの。「あ、これ誰のかな?」
あたしの手にある物を見つめて低い声で言った。
『それ、柳のだ。この間みたもん』
それからあたしは柳美奈の机にその財布を置こうとした。でも、由梨花が言ったんだ。子供の頃からいつも一緒にいる大好きな由梨花。思ってもいない言葉だった。
『捨てちゃいなよ。廊下のゴミ箱にそれ捨てちゃいなよ。わたし柳のこと大っ嫌いなんだ』
そして、いつものやさしい由梨花じゃないような言葉が飛び出した。
『あんなやつ、少し悲しい思いしたほうがいいんだ。いつでも優等生づらして大っ嫌い!』
柳はいつも人とは話もしないし、物静かで教室の隅で本を読んでいる。そんな彼女を、嫌いとも好きともあたしは思ったことなかった。
でも、クラスの女子は良く彼女の悪口を言っていた。
「頭いいと思ってすかしてんじゃないわよ」
まあ、あたしも人と話すことがにがてだし、思ってることがうまく人に伝わらないから同じようなもんだけどさ。
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