第7話

俺のジョッキも残りわずかになった。

「中学生って、なんでお酒飲めないの?二十歳からっていうけど、中身が全然成長してなくても年さえ食ってればいいって事なの?結局、人間って見た目ってこと?」

 オレンジジュースを飲み干して、どんとテーブルに置いた。

 おもしろいね。そういやそうかもしれないね。身体がでかくても小さくても二十歳からってのは不思議だよな。二十歳だっておとななやつもいれば小学生みたいに成長してない幼いやつだっているのにね。おとなって枠で一つになっちまう。

「おっまえ、ひねくれてるねぇ~。クラスとかで浮いてねえ?他に判断材料がないんだからしかたねぇだろうがよ」

 ナオトの言葉がピンポイントだったらしく、瞳をかっと見開いた。

 あわててグラスをテーブルに置いて、ツバサが話題を変えようとどもる。

「さ、更沙ちゃん、ここ来た事あるの?な、なんだか慣れてるみたいだったよね」

 さっき俺が質問した時は、しかとだった更沙は今度は答えた。

「通りの向こう側に由梨花の家があったから」

 更沙は悲しそうな表情でつぶやいた。

 通りの向こう側にはたしか大きな家が何件か建っていた。

「よく、家族揃って一緒にここで食事した」

 ああ、更沙の友だちの家は立ち退きにあったんだ。

 今は、再開発のための更地がところどころに広がっているだけのしけた景色。

「でその子は、今どこに住んでるの?」

 俺の質問にも素直に答えた。

「都内」

 いつになく、ツバサがおしゃべりだ。

「さ、さびしくなっちゃったんだね」

「寂しいって言うか、、だって喧嘩してる途中だったんだもん。原因もわかんないままだったんだよ!」

 ナオトが、まだ腹一杯じゃないらしく冷麺を注文すると言って手をあげた。良かった、こいつまでおごるって言わなくて。

「喧嘩の答えが出したかった訳ね。どっちが正しいか、とか?あ、おね~さ~ん、れ~めん一つ持ってきてくんな~い、とびきりうまいやつおねが~い!」

「そうだよ。なんで怒ってるのかわかんないまんま、いなくなっちゃうなんて卑怯じゃんか!」

 ほうっとナオトが腕組みをする。更沙の目元が赤くなった。

「れ、連絡取る事って、でできないの?」

 あれれツバサ、どもっちゃってあせりまくってる?

 更沙は話し始めた。クラスで人気者の由梨花って言う友達となぜか理由もわからずに仲たがいしてしまったこと。その子がそのまま、転校してしまったこと。クラスメートに自分が泥棒だと思われてるかも知れないということ。もしかしたら、これからいじめにあうかもと。

「べつにいじめられるとか、そんな事はあたしどうでもいいんだ。人に弁解とか説明とか苦手だしうまく伝えるのってできないんだもん」

「やだねぇ~~、女子ってどうしていじめとか嫌がらせするんだろうなぁ~、わっけわかんねぇ~って」

 ズズズゥ~っと音をさせて、ナオトが冷麺をうまそうにすすった。

「ぼ、ぼくだって中学の時、いじめとかにあったよ」

 ありゃ、その話いくんすか。ナオトが嬉しそうに、にやついた。

「そうそう、リュウノスケにね!」

 さらに、ずるずる音をたてている。顔がにやけてるぞ、ナオト。

「ち、ちがうよ。じ、女子にだよ。リュウちゃんじゃないよ!」

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