第6話

「さらさ」

 空を見上げながら、答えた。

「更科のさら、沙羅双樹のさ」

 ナオトが『どんな字』って顔して、首をかしげた。

「ふん、あとで書いてやるよ」

「ちぇ!チュウボウのくせになっまいきな女だぜ。さらなんとかってなんだそりゃ?」

 ツバサが嬉しそうに

「ぼく、わかるよ。書けるよ書ける」

 ツバサはどもりもせずに、うれしそうにステップふんでついてくる。


 焼肉屋は、夕食時だけどそんなに混んでなかった。

 昔からある焼肉屋で学生には嬉しい、量たっぷりの安い店だ。肉もうまい。

 通りが大きくなって開通したら、きっとここは人でいっぱいになっちゃうんだろうな。今はちょっとこきたない店だけど、そのうち大きくなって綺麗になって、こんな値段で食えなくなっちゃうのかもな。

 便利になるってなんだろうって、時々思うことがあるね。

 目の前に広がっているこの大きな道路は、その前は細い抜け道だった。それなりに地元のやつは知ってたから、人の通行量はそこそこあったし、特徴のある店がぱらぱらとあったんだよね。

 煙をもくもくだしてる焼き鳥やとか、関西のうどんやとか。みんな、それぞれこ汚くて安かったしうまかった。でも、焼肉屋のある側は歩道があったからかそのまま残ったのに対して、向こう側の店は全部立ち退いて景色も変わった。

 俺が小さい頃から、変わらなかった景色は一変した。

 それが便利になったというのならそうかもしれないけど、俺はなんにもいい事がないように感じちゃうんだ。

 町が栄えるのってどんなことなんだろうか。チェーン店がたくさん並ぶ事?車の交通量が増える事?それってみんな幸せに思うことなのかな。

 俺は、前の通りが好きだった。


「上カルビ、上ロース、ハラミ、ミノ、タン塩」

 更沙は、慣れた手つきでメニューを指差した。

「おまえ、ここ来た事あるの?」

 俺の質問には答えないで

「はやく、注文しなよ」

 ツバサが嬉しそうに、「同じもの」と言った。なんで、こんなにこいつ嬉しそうなんだ。それにどもらない。

 ナオトは人一倍大食いなので更に何か頼んでいた。やせの大食いっていうの、こいつのことだよね。

 俺たちは運ばれてきた、山盛りの肉をジュウジュウ言わせて焼きながら食べた。

 誰も、何にも言わずもくもくと焼いては口に運んでいく。

 うまい肉は腹の中に、簡単に入っていく。

 ビールを飲み干してナオトが口を開いた。

「ライブ後は、酒がうまいぜ!」

「更沙ちゃんは、お酒飲めないからね。中学生でしょう?」

 ツバサも可愛い顔には似合わず、酒は強い。

 でも俺たちは、ビール一杯だけって決めてるんだ。思いっきり飲むのは、自分らの曲に演奏に十分満足できた時って決めてたから。

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