第5話
「え?あ、す、すみません、ごめんなさい」
そうそう、ツバサはスローな曲でだんだんテンポが速くなってしまうくせがある。びっくりしてぺこりと頭を下げた。
こいつの耳はすごいね。俺らの曲ちゃんと聞いてたんだ。
「あんた!」
俺のほうを向いた。あれ、やっぱ俺にも悪いとこあるんだ。
おもしれぇな、こいつ、拾い物した感じ。
俺はこの子がなんて言うのか、ちょっとわくわくした。
「最後の曲、あたしに歌った気になってんじゃないわよ!一番腹たつ!」
あ、そういうこと。技術面じゃないのね。ちょっとがっかり。
少女の目はまっすぐに俺を見ていた。まっすぐの瞳に懐かしい何かがあるような気がする。
強気の瞳の奥の表情に何かが見つけ出せそうで、うれしい気持ちにさせられる。
とりあえず、最初から用意してあった言葉が口から滑り出た。
「あのさぁ~、俺らそこの焼肉屋行くんだけどさ、おまえも来いよ」
三人が、いっせいに俺を見た。何言ってんの、って顔で。
こんな時、少しだけ嬉しくなるんだよね。俺はナオトみたいにおしゃべりじゃないけど、みんなが面食らったような顔を見るのが好きなんだ。
人って、意外なこと言われた時ってさ、素の自分の顔をするのよね。ナオトは、喧嘩っぱやいし口悪いし目つきも悪い。だけど、今びっくりして目を見開いて俺を見ているナオトは優しい表情をしている。
ツバサはいつも下向きながら上目遣いで人を見るし、すぐ硬くなってどもる。でも、今はまっすぐに俺の目を見て、なかなかのイケメンだろ?
そして、このきつい言葉を連発する少女は、あっけらかんとして幼い顔。まだまだ子どもの顔にもどっちゃうね、中学二年生くらいかな。目じりがすっとしてきつそうにも見えるけど瞳はあったかいものがたっぷり詰まってる。
はは、この子は死のうなんて思わないわ。
ただ、口元はゆがんだまんまだけどな。
「ふぅ~ん、おごってくれるんだ。行ってやってもいいけど?」
北風は、ブルッとするくらい冷たく吹いて彼女の長い髪をなびかせた。
「おお、俺バイト代はいったばっかだからおごってやるから来いよ」
へって顔で俺のこと見てたツバサが
「わぁ~~い、リュウちゃんのおごりだぁ~~行こ行こ!」
いつも財布の中身が軽いツバサが喜んでる。いつもほこりとレシートしか入ってないからね、こいつの財布。
歩きながらナオトに言う。
「あ、ナオトは自分で出してね」
「何でだよ、俺の分もだせよぉ~」
って言うけど、いつも金には困らないナオト。いつでも自分の分は自分で払って腹一杯食うんだよな、俺たちの懐具合考えてくれちゃうんだろうけど。その方が思いっきり食えるからとか何とか言いながらね。こいつの優しいとこだろうな。
こいつは、家が事業やってて末は社長って身分だからね。俺とツバサとはちょっと違う。親は仕事を覚えて欲しくて高額でバイトさせてるけど、本当は俺らとつるんで足並み揃えたくてバイトしてるだけなのよね。
「きみ、名前なんて言うの?」
ツバサが、ふくれっつらでついて来た彼女に聞いた。ツバサがどもんないで話してるなんて、なんでだ?
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