第4話

俺らは結構な荷物を、ナオトの軽のワンボックスにしまった。ナオトが乗り込もうとしたのを俺が止めた。

「車出すのは、後でいいよ、歩いていこうぜ!」

 ロータリーのすぐ脇のコインパーキングに車を置いたまま、なんだか訳がわからないと言う顔のツバサとナオトを連れて俺は歩道橋の階段を上がった。さっきの少女がいた場所。

 焼肉屋は歩道橋を渡った向こう側で、いつにもなくさえない看板が風に揺れて見えていた。

 風は冷たかったけど、俺らはやりたい事をやった後の充実感を味わって心も身体も熱かった。


 駅からこの歩道橋までは昔からあった通りで、そこから先は計画道路の四車線がまっすぐに続いてる。でも、それは遥か向こうの方に立ててあるパイロンで通行止めになっている。道路になっていない不思議な空間が広がっている。

 まだこの道がつながるには時間がかかるだろう、新しく植えられた並木がほそぼそと風にしなって音をたてている。片側の更地には建設計画の立て札がいくつか立っている。

 歩道橋の階段を上がると、そこからは駅前のロータリーが一望できる。今また急行が着いたらしく、都心からの帰りの人達がばらばらとロータリーに現れた。急ぎ足の親父やお姉さん、そんなに急いで家に帰らなくちゃいけないのかな。ゆっくり、まわり見るのもたまにはいいんじゃないの?


「歩道橋ってさ、大きなダンプカーが通ると揺れるんだよね~」

 ツバサがぴょんぴょん飛び跳ねる。普通にしゃべってるな、リラックスしてるんだ。俺はくすっと笑った。無邪気なこいつのそんなとこは、小さい時から変わってない。

「ツバサお前こどもみたいなことするなよぉ~。行き止まりのとんがったこんな道に大型は、入ってこねぇ~ぜ」

 ナオトのでっかい声が静かなアスファルトに響いた。

 さっきの少女は、身体の上半分を手すりの向こう側にだらんとたらして、髪の毛が風に木の葉のように揺れている。

 俺も大きな声を出す。

「よう~、こんなとこに洗濯物が干してあるぜ」

 そう、まるで洗濯物みたいだった。疲れた洗濯物ね。

「うひゃひゃ、ほんと、せんたくもんだぜぇ~おっもしれぇ~」

 ナオトが笑う。あんまりかっこよくない笑い顔、本人は知らないだろうがね。

「ど、どうしたんですか?ぐ、具合でもわ、悪いんですか?悪いんだったら」

 どもりながら、ツバサが心配そうに柵の間から少女の顔をのぞきこんだ。

 とたん、バサッと髪を振り上げてこっちをにらみつけるように俺の正面を向いた。

「あんたらのバンド、うざい!」


 北風が音をたてて、歩道橋を渡っていく。もうすぐ春が来るとは思えないほど、今年は寒さが続いている。 

 一瞬、みんななんて言ったのか理解できなくて固まっていた。

 うざい?うざいって言ったの?俺らのバンド、けなされてる訳?

 ナオトが赤くなってうなった。

「るせぇな、このガキ!おめぇに何がわかんのよ!」

 口は悪いがそれほど怒ってはいないんだけど怖かったりするんだよね、ナオト。

 少女の髪は、さらさらと冷たい北風になびいた。

「あんた、二曲目の曲覚えられてなかったでしょ!」

 ナオトがひるんだ。たしかに、ナオトは二曲目の曲がうまく弾けなくて苦戦していた。おもしろいね、ナオトの顔が引きつってるぜ。

「それからあんた、スローな曲になると、走りすぎ!」

 ツバサに向かって指差した。

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