第51話「にんきょう、むねにおとこぎ」
船にネズミはつきものである。
そして、ウォーカーが発掘されて使われる時代……地球は
大規模な環境汚染や、汚染物質にまみれた土地、そして半減期を過ぎぬままに放置された放射性物質。あらゆる害意が、自然の動物さえも変貌させてしまったのだ。
「なるほど、それがウォーカーマフィアのネズミ達なんですね」
レイカから説明を受けながら、ラムちゃんは歩く。
先生の家まで戻ってくると、意外な人物が待っていた。
「おや先生、珍しいことで……ご
着流しを着た一匹のネズミが、玄関の前で待っていた。
ネズミ達の文明は
ラムちゃんの目にも、この年老いたネズミが
その表情は穏やかだが、瞳の奥には強い光が宿っている。
目が合うと、向こうは
礼をもって挨拶を返すと、
「
「ハハッ、
ラムちゃんがアノイさんと一緒に、二人を見守る。
後ろでぼーっと立っていたガンちゃんが、ボソボソと小声で教えてくれた。
「あの人、
「ガンちゃん、ネズミさんと知り合いなんですか?」
「うん。おっちゃん、商売上手。頭も、いい。なんか、学者? とかっての。それで、ゴミ拾いとか、
ラムちゃんは再度、レイカちゃんと話し込むネズミを見やる。
油断ならない気配だが、同時に今は敵意を感じない。
この街では恐らく、こうして多くのネズミが組織単位でナワバリ争いをしているのかもしれない。ならば、彼等にとってもウォーカーマフィアのネズミ達は敵の筈だ。
言ってみれば、言葉の通じぬ第三勢力……もしくは、ずばり
そんなラムちゃんの思考を読み取るかのように、三ツ矢はニヤリと笑う。
「そっちの
「あ、はい。えっと、私がラムちゃんで、こっちは妹のアノイさんです」
ラムちゃんはペコリと頭を下げる。
うんうんと
それは、死線をくぐり抜けた男の持つ
それを察したのか、アノイさんも「ふむ」と
「しかし、姐さん達も大変だねえ。どうだい、先生は結局……メリッサだったのかい? 今、カーバンクルの手下共が
「それは……えと、一部のパーツはそうなんですけど、メリッサ姉様ではないみたいで」
「そうかい、そりゃ残念だ。まあ、先生は先生さなあ」
煙草をくわえた三ツ矢が、今度は火の元を探してガサゴソと懐をまさぐる。だが、それより速くアノイさんが、パチン! と指を鳴らした。
シュボン! と小さな火花が散って、三ツ矢の煙草が
「こりゃ、えろうすまへんなあ」
「……随分と鉄火場をくぐり抜けてきた顔を。姉者、この
「こりゃ、こっちの姐さんはおっかないや。へへ」
そして、三ツ矢が周囲を一度見渡し、ゆっくりと言葉を
それは、ラムちゃんにとっては
「なんや、昨夜ちょいと妙な二人組を拾いましてなあ。ありゃ、片方はエンジェロイド・デバイス……
「ルナリアとラグナス! ラグちゃんの二人ですね。それがどうして」
「小島市ゆうても、小さい町ですわ。何や、妙な機械を守ってましてなあ。こう、ちょうど背負う形で翼がついてて、なんや大砲とダンビラが一緒にありましたわ」
「ネイクリアスパック……じゃ、じゃあ二人は!」
「えろう疲れてるみたいで、うちの組で預からせてもろてます」
サンドリオンの
だが、行方不明のネイクリアスパックも嬉しかったが、それを探して守ってくれた妹達に胸が熱くなる。どうやら無事で、今は
これであとは、行方不明はジェネとアルタだけだ。
ジェネは守りの防壁の使い手で、
アルタもまだまだ未熟だが、その力の伸びしろは未知数だ……ただ、ライバルとも言えるアークを前に、果たして無事かどうか。
「あのっ! とりあえず、ルナリアとラグナスに会いに行ってもいいですか?」
「そりゃ、かまいまへん。まあ……信用せえ言うんは、ちょっと難しい思いますけど。そこはうちらも、以前は先生にえろう世話になりまして。ただ……ただなあ、姐さん」
不意に三ツ矢の目元が
途端に、
ラムちゃんの背筋を、寒気が瞬時に駆け上がった。
「姐さん……あのウォーカーマフィアの連中、うちらも手ぇ焼いてましてなあ。せやけど、カーバンクルの兵隊さんも、その周りで甘い汁吸うてる奴等も、いい顔しまへん」
「つまり……誰にとってもウォーカーマフィアのネズミさんは、敵」
「さいです。んで……敵の敵は味方ちゅう、そういうことは考えませんのやろか?」
三ツ矢の目は本気だ。
そして、自分は
だが、考えるまでもない。
感じるままに、ただ当然のことを判断して、それを知ってもらう。共有できるのなら、それは信頼関係の構築に成功したと思ってもいいだろう。
「敵の敵は味方……しかし、三ツ矢さんにとってもウォーカーマフィアのネズミさんは」
「勿論、目の上のたんこぶですわ。デカいガタイでうちのシマぁ、荒しよる。あいつら、女子供も見境ないし……あればあるだけ食っちまう。あとに残るのは、ゴーストタウンと化した
「私は、妹の恩人に害をなす者達とは手を結べません」
「ほう……?」
「敵の敵が味方ならば、共通の敵を倒してしまうと……その
そこに、戦略的な有利不利、損得という
ただ、ラムちゃんの気持ちは極めてシンプルだ。
――メリッサ姉様なら、どうするか。
だが、答は決まっている。
皆の敬愛する
三ツ矢はニイイと口元を
「小気味いい話でんなあ、姐さん。真っ直ぐで
「そんなことはありません。私の手は、汚れています。本来は人間達の娯楽として遊んでもらう、
「ええでしょう。もともと会ってもうらつもりでしたしい、それに……少々興味が湧いてきましたわ。姐さん、苦労しますやろ? ほんにもぉ、難儀なやっちゃ」
それだけ言うと、三ツ矢はクイと
若いネズミ達が、そそくさと後部座席のドアを開く。
レイカはガンちゃんと一緒に、互いに向き合い頷いた。
「ラムの
「ご飯、みんなに、くばる。今日は、けっこー、配れそう」
「だな。先生から金も借りれたし」
「ん」
そこで、一度二人と分かれてラムちゃんは芦刈組の屋敷に
無論、アノイさんと先生が一緒だ。
彼女が肩の炎を揺らして近付くと、
こうしてラムちゃんは、三ツ矢達と一緒に小島市へと向かうのだった。
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