第41話「すなのうみを、わたって」
晴れ渡る空は今、
巨大なウォーカーの
砂の海は静かに
貨物用のカーゴが
目指す港町までは、このスピードなら半日だと船長は言っていた。
ネズミの船長は、ラムちゃん達エンジェロイド・デバイスについてなにも聞いてこない。そのことを不思議に思って見詰めてると、
「なんでえ、オイラの顔になにかついてるかい?」
「い、いえ、なにも」
「お嬢さん、
「ええ、まあ。あの、船長さんは」
「ああ、オイラかい? なに、
陽気に笑うネズミは、カーバンクルの目指す野望に興味はないようだ。
こういうネズミ達が大多数なら、どれほどいいだろうか。彼等は各艦に住む同居人のようなもので、衛生上は
だが、カーバンクルに洗脳されたネズミ達は違う。
リジャスト・グリッターズの壊滅を
共に戦う妹達へと視線を滑らせれば、アノイさんはラグナスと
それを見守るルナリアも優しい笑みで、船旅を彼女なりに
「……待った。アノイさん、待っただ」
「フッ、そろそろ
「待った……
「
二人は今、マス目が
改めてラムちゃんは驚く。
ネズミ達は文明ばかりか、文化的にも独自の発展をしている。
自ら豊かさを求めて、娯楽にまで気が回る程に進化しているのだ。
それも、急激なスピードで。
改めて事態の深刻さを知るラムちゃんに、隣のルナリアが微笑みかけてくる。
「ラム姉様? どうかされましたか」
「ああ、うん……ネズミ達のことをもっと知らなきゃ、って」
「そうですね。こうした娯楽があれば、オアシスのネズミさん達も楽しめますし。それに、人はパンのみで生きるにあらず……」
「そう、パンだけじゃ生きていけないから。ネズミ達も今は、艦隊のあちこちで生きてるから」
「はいっ! ですから私、ネズミさん達にはお米もちゃんと食べるようにと。
「……や、そういう意味じゃないと思うよ、ルナリア……パンのみで生きるにあらず、っていうのは」
ほわほわと笑うルナリアからは、おひさまの匂いがする。
ラムちゃんは、彼女が姉を
そうこうしていると、
「あんた
「
「そう、それが各艦を定期的に行き来してるんでい」
「きっと定例の
「そのランチってのに便乗させてもらうのさあ」
聞けば、これから向かう港町は砂漠の外れにあるという。
砂の海が途切れる先は、パイプを昇ればピークォドに新設された連絡用デッキに通じている。そこでは、小型のランチやコンテナの
デッキへ上がれば、あとはタイミングよく他の艦へ向かうランチに飛び乗ればいい。
「以前、オイラも三番艦愛鷹にいてねえ……あそこは、いうなればゴロツキやチンピラの
「わかる気がします……生きてる限りは、エンジェロイド・デバイスもネズミ達も一緒だと思うから。
「そうさ……そして、ああいう
「えっと……ヤクザさん、みたいなものですか?」
「それでさあ、お嬢さん。……ちょいと前、派手な一件があってなあ。あの街も今はどうなってるか。だが、オイラは見たぜ? あんた等と同じえんぜろいど・でばーすを」
「私達姉妹を!?」
ラムちゃんが驚くと「詳しく聞こうか」とラグナスが向き直る。
彼はちゃっかり、真剣な顔をしながら盤上の駒をガラガラと箱にしまった。どうやら圧勝間近だったらしく、アノイさんが「むむむっ!」と
だが、構わずラグナスが話を
「黒コートの奇妙な
「黒コート……長ドス……も、もっと情報はないでしょうか! もしかしたら、その方……私達の姉様、一番上のメリッサ姉様じゃ」
「あいにくと、今は話をとんと聞かねえ。あの街も変わっちまったのさあ。……おっといけねえ! 長話で忘れちまうとこだった」
不意に思い出したように、船長は舵輪を離れる。
彼は奥から、大きな荷物を取り出してきた。
それはよくみれば、ネズミだ。
ネズミの姿を象った、大きな着ぐるみである。
「お嬢さん方、こいつを着たほうがいいな。これから行く港町じゃあ、えんぜろいど・でばーすがそのまま歩いちゃ物騒でね。なに、サービスだ……つけとくぜえ?」
「あ、ありがとう、ございます。でも、なんで」
「なぁに、立場違えどネズミはネズミ。ネズミを助けるお嬢さん方になら、恩を売ってもみたくなるってもんさ、ガッハッハ!」
四人分の着ぐるみを出してくれたので、ラムちゃんは皆と手にとってみる。
だが、そのデキが
まったくネズミに似ていない。
悪い意味で
タジタジになってラムちゃんが「え、えっと……」と言い
「こいつは、カーバンクル親衛隊で最強の女、アークって奴が作ったんだ。例の事件、カーバンクル様の住む二番艦サンダー・チャイルドで騒ぎがあった時になあ……こいつが噂になって、ご禁制のレプリカが出回ってんのよ」
「どうしてこれを……あ、アノイさん? あの」
アークの名を聞いたアノイさんが、不意に緊張感を
彼女は着ぐるみを手に取ると、自分に言い聞かせるように
「アーク……現在最強の戦士。だが、奴を倒すのは我ではない。そう、アークを倒すのは……繋がりはなくとも姉妹の絆を結んだ、白亜の闘志を燃やす皆の妹」
「アノイさん、それって」
「フッ、姉者……
思わずラムちゃんは「えっ」っと言ったまま絶句してしまった。
そうだろうか?
かわいい?
本当だろうか?
かわいい……?
だが、気に入ったのかアノイさんは
そして振り向けば、
「ラム姉様、着てみました……どうでしょう、似合うでしょうか」
ルナリアは
「……着るしかない、みたいですね!」
観念してラムちゃんも、珍妙極まりない着ぐるみを着込む。
その頃にはもう、地平線の向こうに巨大な柱が見えてきた。
それが連絡用デッキに通じる通気口のパイプだ。その下に広がる
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