《第四話 アイオッドシステム》
#19 アクティヴ・バニー
(主人は出ていったぞ。お前はどうするつもりだ)
マコトが帰ってから数時間もガイは日課の《ジーオッド》のコクピットに座りに対話を試みていた。いい加減に機械となんて会話するな、とアリスには馬鹿にされたが止めるわけにはいかない。
(そろそろ答えろって、ゴッドグレイツさんよ)
自分の力は心を読む力はこういう時にある。このマシンと出会ってから魅了され、あるいは取り付かれたように使命感に燃えて行い続けていた。
これも自分を救ってくれた恩人てまあるレディムーンのため。ガイは心の中で念じ、何度も呼び掛けを続ける。
(本当にお前は機械なのか? 機械が何だって意思を持っている? 何のために作られて、何のためにそんな強い力を持つ?)
──。
すると、文字にならない声がガイの頭の中に響いてきた。不思議の主は《ジーオッド》である。ガイには《ジーオッド》が放つ、その言葉の意味が伝わった。
(なるほど、それで守るため? ベイルアウトはアンタが呼び掛けているから? でも戦う力を俺たちに貸すのは……)
────、──。
(アイツが力を求めているから、それが反発しあって……紅い眼は激情、蒼い眼は無情。それが…………そうか。どうすれば良い?)
──、────。
(諸刃の剣だな。合体はした方が良いのに、アイツの体のためにならないなんてよ……気にするな。もしもの時が来たら俺が…………呼んでる?!)
「相見さん! 今から《ジーオッド》を出すぞ! 機体のロックを外してくれっ!」
ガイはコクピットから飛び出し、パイプ椅子で眠りこける整備士長の相見丁太を起こしてハンガーの解除を急がせる。
「おじ様のことは寝かせてやりなよーっ!」
別で作業をしていたヨシカが遠くで叫び、昼食の鮭おにぎりを頬張るオボロと共に駆け寄ってきた。
「アタシのお願いで夜遅くまで付き合ってくれたから疲れてるんだよ」
「新兵器の開発の事か?」
「あらっ? 普通そこは顔を赤らめてくれると嬉しいんだけど」
チラリと作業着の胸元を見せつけるヨシカだったが、ガイには通用しなかった。
「止めておけヨシカよ……こいつは不能だ」
「そんなトラップは心を読めば簡単に分かる、簡単に引っ掛かかるか……それよりも早く外してくれ。直ぐに飛んでいきたいんだ」
「もしかして、ナギっちのピンチなん?」
「そう言うことだ」
「それなら早く言ってよぉ。待っててすぐやるからさ」
ヨシカは《ジーオッド》を固定するハンガーのコントロールパネルを操作して機体のロックを解除。天井の隔壁も開かれ、目映い太陽光が降り注ぐ。
「土産を持ってくるんだぞガイ」
「覚えてたらな?!」
ふわりと浮かぶ《ジーオッド》は弾丸のように勢いよく上空へと飛翔した。
(待っててくれよマコト、レディムーン……)
◇◆◇◆◇
その姿はまるでバルーンに手が生えたような醜いSVだった。四方から警備隊の《ゴラム》のハンドガンから撃たれ続ける弾丸は、丸々と肥えた腹を貫通させることが出来ずに地面や建物へと跳ね返って被害を増やす。
「ちょちょちょ、ボスキャラ登場とかアリエナイんですけどぉ!?」
射撃兵器の無い宇佐美心(ウサミ)のウサミミSVこと《ハーティア》は敵機から離れたところで観察していた。敵機は十メートルある《ハーティア》の倍近くある巨大なSVである。ここまで大きなマシンは軍でも通常の作戦では運用しない。
「識別コード、この機体って統連軍の《シュラウダ》だけど……こんなオデブちゃんだっけ? 君、写真と違くない?」
軍の記録データを調べて、外見の写真と見比べながら心は首を傾げる。
この《シュラウダ》と言う機体は全身を特殊な伸び縮みする特殊合金の繊維で皮膚のように覆われている。関節が人のような広い可動域で自由に動き、運動性能は抜群に高い。
パージョンアップを重ねて二十年近く運用されているが高価なため、一部の部隊にしか配備されない高価なSVだ。
「骨組みと装甲の間はトップシークレット…………それじゃブヨブヨに肥えたあの中には何が入っているの、か、し、らんっ?!」
丁度いい大きさの先端が尖った瓦礫を拾うと《ハーティア》は《シュラウダ》の脇腹辺りを狙って投擲する。勢いに任せた投げた瓦礫は切り揉み状に回転する瓦礫が吸い込まれるように穴を開けると水のように透明な液体が盛れ出す。が、液体は空気に触れると即座に凝固して穴を塞いだ。
「もっとブスブス刺してやらなきゃ……後ろへドーリィ2、4!」
背後から《ハーティア》に迫る《スレンディア》のソードを《ドーリアン》の四号機が白羽取りし、二号機が奪い取る。直ぐ様、振り向いた《ハーティア》は腰の細い《スレンディア》を大きな両腕で抱き止めて、強引に絞め潰した。
「永遠に借りちゃうわよ、このソード!」
ぺしゃんこになった《スレンディア》を海に放ると《ハーティア》は盗ったソードを掴んで走る。スラスターの役割も兼ねた背部と脚部の《ドーリアン》のお陰で《シュラウダ》まで一気に迫った。
「みんな射撃を止めてね! あのデブチンはココロがヤるよ!」
警備隊に言う心の《ハーティア》も小型な割りに太ましい機体であるのは置いといて、ソードを構えながら転がっているコンテナを踏み台にジャンプして突撃する。
だが、ソードの刃は《シュラウダ》の腰から取り出した長い鋼鉄製のロッドによって防がれてしまい、根本から折られてしまった。
空宙でバランスを崩す《ハーティア》に《シュラウダ》は、すかさず追い討ちをかける。持っていたロッドは等間隔で三つに分割させると、物凄い勢いで《ハーティア》を地面に叩き落とす。
「ヌ、ヌンチャ……!?」
正確には三節棍。地面に着く瞬間に背部の《ドーリアン》三号と四号の出力を最大限に上げて衝突を和らげたが、二機は《ハーティア》の重さに耐えられず大破した。
「メイン、サブカメラは無事なのかな……もう、乗り手はカンフー使いかなぁっ?!」
各所のダメージを気にしながら機体を立ち上がらせ潰れた《ドーリアン》を切り離す。
「ごめんねドーリィ3、4……」
武器を手にした《シュラウダ》は不動の姿勢から活発に攻撃を開始する。ブンブン、と振り回される三節棍は木や電柱をなぎ倒しながら警備隊の《ゴラム》を殴り飛ばす。装甲の厚い《ハーティア》は致命傷に至らなかったが軍用でないこの《ゴラム》では防御しようが簡単に破壊された。
しかし、その中に健闘している《ゴラム》が一機。この機体だけ他の《ゴラム》と比べて動きが戦い慣れしている。対SV用の電磁ランスを上手く使って《シュラウダ》の三節棍を往なす。
「誰のゴラム? 頑張るじゃないの、やれやれー!」
と、端から応援している場合ではなかった。ウサミも気合いを入れ直し、どうやったら倒せるのか冷静に《シュラウダ》と《ゴラム》の動きを観察する。
その《ゴラム》のパイロットことマコトは必死だった。
本当の搭乗者は既に瓦礫の下敷きになっており、都合よく起動キーが差しっぱなしだったので拝借した。
性能で言えば今まで乗っていた《ビシュー》と比べ物にならないほど快適だが問題はそこではない。
何処からか感じる冷ややかな視線。眼帯をしていない右目は《シュラウダ》の三節棍の軌道を正確に捉えると同時に、モニターの端で軍服の男性がサブリミナル的に視界に入ってきた。その表情は戦うことの出来なかった無念さが滲み出ていた。
「戦いの邪魔……消えてよ鬱陶しい!」
一体なんだったのか、マコトの威圧する声に驚いて男性はモニターから姿を消す。それに安心して集中力を欠いたせいで《ゴラム》は《シュラウダ》の攻撃により、両手に持っていた電磁ランスを弾き飛ばされてしまった。
「ちぃっ!」
舌打ち、イライラは募るばかり。早くなる三節棍の殴打を避けつつ、後退するマコトの《ゴラム》は武器を探す。
「力……力が足りない、圧倒的に」
このままでは一方的に倒されるのが落ちだった。しかし、あの巨大な《シュラウダ》を負かすことの出来る武器があるとも思えない。
マコトの頭を過るのは赤い魔神の《ジーオッド》だ。
「あんなのには頼らない。私は私の力でアイツを…………っ!」
瓦礫の雨がマコトの《ゴラム》を襲った。見上げると《シュラウダ》が間近に迫っている。
右目で真っ直ぐと視線に敵を捉えるマコトは、封印されていた左目の眼帯を外してしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます