#05 魔神の産声

「まだ退かせないのですか?! 三体とは言え被害が大きすぎる!」

 ゼナス・ドラグストが瓦礫を運ぶ職員を急かす。格納庫がテロリスト達の攻撃で倒壊し、中のSVが埋まって発進することが出来ないでいた。


「ここから私のSVを取りに行くには遠すぎる。第三校舎に援軍は……」

「さっき断られたじゃないですか。そっちの問題はそっちで解決しろと」

「何をバカな……学園の非常事態なのは同じだと言うのに」

 癖で親指の爪を噛むゼナス。


「それにしても敷地内へ入られてからレーダーが関知されるなんて」

「今だって消えたり現れたりしたる。ステルス型のSVなのか?」

「バカだなぁ。ステルス機ってのは手足のある人型、それもあんなミサイルとかバズーカとかの武器持ちじゃ意味無いんだよ」

「そこ! ……喋ってないで手を動かしたまえ!」

 サボる職員達にイライラしてゼナスは大声を上げる。生徒のピンチも助けられないで何が“薔薇騎士”だ、と悔しい表情を浮かべながら、自分用に白いカラーを施した《ビシュー》の訓練機を睨んだ。



 ◇◆◇◆◇



 黒須十子(クロス・トーコ)の《ビシュー》が破壊行動を続ける《スレンディア》の隙を見て背後から飛び付く。ライフルの銃口をボディと首の付け根に差し入れて弾丸を叩き込んだ。抵抗する間もなくコクピットを潰された《スレンディア》は膝から崩れ落ちる。


「サナちゃん大丈夫かな?」

 レーダーにマコトの反応はあるが敵の存在は確認できない。撤退したのならばありがたいが、最初の場所から遠くに離れてしまいここからでは状況が掴めない。


「また反応。この識別は味方……でも、知らない機体。あともう一つ……下っ?!」

 トーコはとっさに機体を仰け反らせる。頭部を掠めた物体が空で爆発した。なんと、コクピットは潰したはずの《スレンディア》が正座の状態でフルフルとした腕でバズーカを撃ってきたのだ。


「…………exSV。でも模造品では仕方ないですね」

 今度は確実に、トーコの《ビシュー》は高周波ブレードの刃を《スレンディア》の頭に添えて、真っ二つに叩き割った。



 ◇◆◇◆◇



「おいマコト! もう敵はいないようだぞ?」

 戦闘に勝ったと言うのに格納庫へ戻るでもなく別の場所へ移動させる《ジーオッドB(ビシュー)》を操るマコトにガイは一旦、止めるよう説得する。


「……あなた誰なの? 勝手に名前を……気安く私の中に入らないでよ……」

 マコトが静かに言う。言葉は機体のスピーカーからではなく、脳へ直接的に聞こえているようだった。


「オボロの奴め、まだ来ないのか……だから、止まれってば!」

「……いる…………まだ敵はいる……」

 指を差すマコト。そこはガイが侵入に利用したトレーラーのあった場所ある。炎の揺らめく先に巨大な人影。その手はトゲの付いた鉄球とドリルになっている大柄で奇妙なSVがトレーラーから立ち上がる。


『驚いたぞ。アレを知る者がいたとはな……』

 野太い男の声。奇妙なSVに乗るパイロットの鬼平半兵が《ジーオッドB》の通信を送ってきた。


「あれは……お前の、教官か? にしては敵意が剥き出しすぎる」

「…………」

『ソレは、このオーダーメイドで作った《バンカル》がexSVになる為の特別なヘッドだぞ。おい、サナナギィ……自分が何をしてるのか、わかってるんだろうなぁーッ?』

 鬼平は叫ぶ。重い身体を揺らして《バンカル》が走って勢いよく左腕を振り上げる。特殊合金で出来た鎖を伸ばすと、腕を下ろして先に付いた鉄球を《ジーオッドB》に目掛けて落とす。


『砕け散れぇぇーいっ!!』

「……あんたがなッ……!」

 ブーストによる加速が付いた鉄球を《ジーオッドB》は片手で受け止める。ボーリングの球の如く無理矢理に指を入れて掴んで引っ張る。合体した《ジーオッドB》よりも重量は重いであろう《バンカル》を宙に浮かせてしまった。


『流石はvSVと呼ばれるだけはある。だが、ベイルアウターの貴様が扱える代物ではない!』

 空中で身体を捻った《バンカル》は引っ張られるのを利用して、鉄球の鎖を戻しつつ《ジーオッドB》へと向かいブースト、突撃する。


『加速装置付(アクセル)超高速掘削腕(ドリル)だ!』

 肘のバーニアを吹かせ、先が鋭く尖り回転する右腕を《ジーオッドB》の顔面に悪意を込めて突き出した。鬼平の表情は教え子に対してする物ではなく、自分の欲望のために邪魔な存在は消す、と言う殺意しかなかった。


「……だから……どうした……」

 マコトが呟く。頭部に乗るガイは死を覚悟してはいなかった。もし覚悟するとしたら目の前の男ではない。それは何故ならば、マコトの方が強い意思──殺意──を抱いているからだ。


「そんなので、何をしようって?!」

 いつの間にか《ジーオッドB》が《バンカル》の背後にいた。突然の消失に鬼平も、ガイもどうなったかわからなかった。


「……灰になれ……」

 強く握りしめた《ジーオッドB》の右手が深紅に輝き、激しく炎が揺らぐ。コンソールには〈カーボナイズ・フレア〉と文字が表示されていた。


「もう止めろマコトっ!!」

 ガイの叫び。鬼平が機体を振り向かせるよりも早く、燃え盛る右手が《バンカル》の土手っ腹を貫いた。肘まで突っ込んだ腕を引き抜くと、コクピットブロックに風穴が《バンカル》は一瞬、炎に包まれると直ぐに炭化。吹き付ける風で砂のようにボロボロと形が崩れていった。


「くっ…………お前、やっちまったのか」

 鬼平の死にガイは顔を歪める。気を読む力が《ジーオッドB》によって増幅し、鬼平の怨念を一身に受けてしまい気分が悪い。マコトは何も感じないのか、鬼平については全く気にしていないのか平気なようだが、


「はぁ……敵、敵が……テキ、ガ、ホシイィ……はぁはぁっ」


 焦点の合ってない目で敵が、敵が、とマコトが息荒くして呟いた。口の端から血も垂れている。


(疲弊している。もう持たないか?)

「テキ、テキ、テキ、テキテキテキィーッ…………ぅっ!」

 壊れたスピーカーのように言葉を発するマコトに限界が来る。急に気を失ってコンソールに倒れた。


『待たせたな小僧!』

 上空から通信。黒煙の昇る闇夜に蒼い戦闘機が颯爽と現れる。


「俺のエアキャリー! 遅いぞババァ! お前それ操縦できたっけか?」

『説明書を読んだのだ。これくらいの芸当なんとかなろうぞ』

 無い胸を張ってオボロは自信満々に言ってみせる。 


『早く帰るぞ。こんな所、さっさとおさらばだ』

「まて……ジーオッドに操作が戻っている? 今飛ぶぞオボロ!」

 フットペダルを思いきり踏みしめながら、ガイは《ジーオッドB》を大ジャンプさせた。

 地上ギリギリを高速で飛行する《エアキャリー》の底部にあるグリップを《ジーオッドB》はタイミングよく掴むと、急上昇して学園から急いで離脱、二機は空の彼方へと消えた。

 そこから少し遅れてゼナスの白い《ビシュー》他、大和アームズアカデミーのSV部隊がやって来る。謎のテロリスト襲撃からここまで三十分も経っていないのに周辺は酷い有り様だ。


『追わないんですかゼナス様?』

『今は人命救助、火災の消火が最優先だ…………これではFREESの、ドラグスト家の名折れだよ』

 苦虫を噛み締めた表情で、ゼナスは熱気で揺らめく虚空を何時までも見つめていた。

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