#04 合体!神なる偉大

『シャドー1、ジャマーを解除。目標の学園に侵入した。これより戦闘を開始する』

『シャドー2、了解』

『シャドー3、了解』

 電磁迷彩が解かれ、三機のSVが大和アームズアカデミーの校庭に忽然と現れる。その瞬間、敷地内のあらゆる場所から警報のサイレンが響き渡った。細い手足をしているのに大型のミサイルを背負うモノや、バズーカを両手に担いでいるそのSVの名は《スレンディア》と言う。

 左右の《スレンディア》二機が建物を攻撃すると、たちまち辺りは火の海と化す。突然の出来事に生徒たちは戸惑い、右往左往しながら逃げ惑う。


『レーダーに接近する機影あり。数は5』

『これは《フォルムレス》では無いな。雑魚には構うな。任務は《フォルムレス》をおびき寄せることだ』

『その為のexSVである《スレンディア》ってわけか?』

 テロリスト達は静かに会話を行う。その前に大和アームズアカデミーのエリート訓練生部隊が立ちはだかった。



 ◇◆◇◆◇



 結論から言えば全く勝負になっていなかった。

 五対三──実質的には四対三──の戦力、訓練生とは言えエリートを集めたはずだったが、想定していたよりも撃墜されるのが早く呆気ない結末。ある程度、訓練生に遊ばせて後から颯爽と助けに行こう、と考えていた鬼平の計画がパーであった。


「こいつ、SVの動きじゃないぞっ?!」

 テロリストの《スレンディア》は跳ねるように軽快なステップで右へ左へ飛びながら《ビシュー》の繰り出すライフルの弾丸を避ける。その俊敏さは機械的ではなく生物的な動きであった。気が付けば二機の距離はお互いに腕が届く範囲に肉薄していた


「近……あい……ゥアァッ!?」

 眼球の様な《ビシュー》の丸い一つ目ヘッドを飛びかかって掴んだ《スレンディア》が地面に叩きつける。そのまま押さえつけて胸部にハンドガンを二発打ち込んだ。


「隙、ごめんなさい!」

 しゃがみ状態で気を取られている《スレンディア》の背後で別の《ビシュー》から高周波ブレードのフルスイングをお見舞いする。下半身からオイルが飛び散り、上半身が校舎の屋上へと吹き飛んでいった。


「はぁはぁ…………どうしようサナちゃん、私たち二人だけになっちゃったよ?!」

 訓練生の少女が怯えたようにマコトへ通信を送る。やっと一機を倒したとはいえ戦力の差は歴然だった。 テロリストの《スレンディア》二機は先程から棒立ちで静止しているマコトの《ビシュー》は無視して残りの《ビシュー》をターゲットに決める。


「教官、応答してください教官!? 来る……っ!」

 近付くのは得策ではないと判断したテロリストは《スレンディア》を少し後退させ遠距離からミサイルやバズーカで攻撃する。少女の《ビシュー》は回避しようと移動するが、それが建物を盾にしてしまい被害は拡大していった。


「教官……サナちゃん、助けてッ?!」

 悲痛な叫びが木霊する。

 マコトの手は脱出装置のボタンに触れていた。これまでの搭乗時間と比べで耐えた方である。少し力を込めれば一瞬で、ここから遠く離れた場所に離脱することができる。しかし、それでは同級生が死んでしまうかもしれない。


「あ、私が行っても…………私が勝てる可能性は」

 無かった。そう思うと体が震え、ドッと汗が吹き出す。首筋が異常に痒くなりマコトはヘルメットと手袋を投げ捨てる。襟のボタンを外して両手で首を掻いた。目線が下に向くとレーダーに二つの反応がある。


「……来、てる……」

 顔を上げてモニターを見ると、走ってくる《スレンディア》と目が合った。何故ターゲットを変えてコッチに来るんだよ、とマコトの指は脱出装置に伸びる。

 だが、汗で指がスイッチを滑り押せなかった。


「ぅあぁぁぁあぁぁぁぁぁーっ!?」

 死んだ。周りに“ベイルアウター”と呼ばれていたはずの自分が緊急脱出できない痛恨のミス。マコトは喉が擦りきれるほど絶叫する。


「……………………っ?」

 頭を抱えて、うずくまって数秒が経つ。攻撃されていないことに気付きマコトは目を開ける。


『何だよ、コイツは?!』

 コンクリートの地面が割れて空いた穴から出てきたのは紅い鋼鉄の兜であった。それが現れた瞬間に《スレンディア》のボディへ偶然、頭突きを食らわせ吹き飛ばしたのだ。


『つっても揺れも少ない丈夫なヘッドだ、この……G…………ジーオッドって読むのか?』


 Guardian Of 

 Destiny/Doom


 と、コンソール画面に表示されていた文字を傷の青年、ガイは無理矢理に《ジーオッド》と読んでみた。


『何処まで出来る? ビームが撃てるってのか……なら!』

 操作用アームを握るとガイの頭に自然と《ジーオッド》の使い方が流れてくる。それは言葉ではなく自然に動く感覚で《ジーオッド》は視線の先に居る《スレンディア》に光線を目から放った。だが、その光線は《スレンディア》の装甲を焦がす程度に傷を付けることしか出来ない。


『身体が欲しいだって? お前の身体…………アレは、さっきの』

 地下から見上げた気の一つが目の前の量産機から感じられる。《ジーオッド》はあの《ビシュー》を欲しがっていた。


「何……こっちに来るの?」

 ガイは《ジーオッド》が求めるまま、マコトの《ビシュー》に向かって飛ぶ。奇妙な頭部メカに驚きマコトは身構える。


『パイロット! どうなるのか俺にも分からんが貸して貰うぞ、その身体!』

「え? は、いやダメ来ないで!」

 ドシン、脳を揺らすほどの振動がコクピットに伝わる。


「ま、真上に……コイツっ!?」

 焦るマコト。《ビシュー》のレーダーには自機へ重なるように《ジーオッド》のマーカーが点滅していた。何かに頭部を隠されモニターは真っ暗に包まれ周りが全く見えない。取り付かれているのならば、こんな機体などさっさと捨ててやる、とマコトは脱出装置を作動させた。


「どうしてよ、押してるのに……なんで、脱出できない?!」

 何度もボタンを連打しているにも関わらずシートが後部へと射出されない。それどころかハッチも開かずコクピットから出ることも不可能だった。ガチャガチャと色んなスイッチやレバーを動かすマコトは鬼気迫る表情に変わっていく。


「くっ……これは、これ頭が熱い…………い、痛い……痛いッ痛いッ!?」

 謎の痛みがマコトを襲う。あまりの苦痛に叫び、コクピットの壁やコンソールを狂ったように叩いたり蹴ったりした。暗いはずなのにマコトの視覚が紅く染まる。


『〈サーフィス・シュラウド〉システム? 上っ面……偉大合体…………まだグレイツではない?』

 一方でガイは冷静だった。流れ込んでくる膨大な情報量に混乱はしているが、気になるのは身体を奪った量産機の少女マコトの方だ。

 普通ではない異様な気の流れを感じる。それは人間特有の自然なモノではなく人工的、作られたモノのように感じられた。


『ジーオッドは、マコトの為に作られた……何のために?』

 それ以上の情報を《ジーオッド》は教えてくれない。そもそも機械相手に気を触れ合わせるのはガイも初めてだ。マコトの気も何かしらの壁が出来て、きて心の中を探ることは出来ない。

 二人に気を取られてガイは敵に気が付かなかった。いつの間にか《スレンディア》に背後を取られている。とっさにガイはレバーを引くが変な違和感を感じた。機体操作が譲渡されている。


「……私の後ろに、立つな」

 対戦車ソードを振りかぶった《スレンディア》の攻撃は《ビシュー?》は刃の触れるギリギリな距離で避けた。


「……デト、ネイト……」

 振り向いた《ビシュー?》が《スレンディア》の胸部を掴むと突然、大爆発を引き起こした。ブスブスと黒い煙を出す頭と手足を残して《スレンディア》が四散するが《ビシュー?》は傷一つ付いていない。

 ちなみに《ビシュー》の腕部には爆破を発生させる武器、武装は存在しない。


「敵……敵は何処なの《ゴッドグレイツ》……敵が、敵が欲しいッ!」

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