第五部(6、三国山、赤坂山)

  三国山、赤坂山 1978年秋


 琵琶湖の西北にある赤坂山や三国山も紅葉が綺麗だ

と聞いて、11月に入り、由美子と宏幸は出かけるこ

とにした。

 早朝に山科を出て大津へ抜け、ひたすら国道161

号を走り、マキノ町からは県道を北上、黒河越の登山

口には9時半に着いた。途中のブナやミズナラも色づ

いていた。

 登山道から直ぐ林道を歩き、再び、見晴らしの良い

ジグザグの登山道を登ること90分、三国山と赤坂山

との分岐点に着く。そこから右へ15分、三国山(標

高876m)に着いた。

「三国山って方々に聞く名前よね。だけどここは滋賀

県と福井県の境なのに、なぜ三国なの・・」

「昔は、福井は若狭と越前に分かれていて、その境界

が、ここから若狭湾まで延びていたのや」

 ササ原の展望は良くないので分岐まで戻る。この付

近は湿地も多く、ヤマボクチやリンドウが未だ咲いて

いる。

「ヤマボクチって、色は黒いけど、アザミに似ている

のね」

「この辺りは、5月にはつつじ、7月にはキンコウカ

の群落が見られるそうや」

「キンコウカって、槍に登った帰りに上高地で見た花

ね。黄色い鮮やかな花が、一杯咲いていたのを覚えて

いるわ」

「ガイドブックには、この辺りが、キンコウカの咲く

西の端と書いてあるなあ」

 緩やかな登り道を行くと明王ノ禿が見えてきた。そ

のガラ場を越えて登ると赤坂山(標高824m)に1

2時半に到着した。

 秋風にクマザサとススキが揺れ、紅葉が混じる山肌

と360度の展望が利く。

「三国山があんなに近いのね」

「左の向こうが、若狭湾。ずっと右へ回れば伊吹山」

「琵琶湖の中の、あの島は・・」

「沖島ゆうて、淡水湖では日本で唯一、人が定住して

いる島や。小学校まであるそうや」

「何で生計立てているのかしら・・」

「もちろん、漁業が中心や。モロコやエビ、小鮎に・

・。そやけど最近外来魚が増えて、漁獲量が減ってい

るそうや」

「外来魚が生態系を壊しているのね」

「その外来魚を放流したのは水産庁や。外国から移入

して、琵琶湖の漁獲量増やす名目でやったそうやが、

その外来魚が従来の琵琶湖の魚を駆逐しだしているの

や」

「同じことは野山でも言えるわ。セイタカアワダチソ

ウや西洋タンポポがいい例ね」

 宏幸は、いつまでも憤ってては、折角の由美子の作

ってきてくれた弁当がまずくなると思い、

「この白身の焼き魚、淡白で美味いな」

「錦市場の魚屋さんで珍しい魚が入ってる言われたん

で、焼いてもらってきたのよ。確か琵琶湖で捕れた、

ブラックバスとか言う魚だったと思うわ」

「えぇ・・それ、外来魚やがな」

 もと来た道を黒河越まで戻り、県道を下って行くと

白谷温泉がある。

「滋賀県は火山が無いけど、温泉はあるのね」

「有名なのは雄琴温泉、それに須賀谷温泉。ここは最

近掘ったのかな・・」

「当然寄っていくでしょう・・」

「効能書を見てからや」

「美人湯に決まってるでしょう」

「勝手に効能書作るなよ」


章末注記

(1)琵琶湖の外来魚は、1960年に当時の皇太子

  が北米から持ち帰り、水産庁に渡った。



・・・高見山 1978年冬 に続く。

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