第五部(3、ギター教室)

  ギター教室 1977年冬


 宏幸は、学生時代にバイト代で買ったヤマハのフォ

ークギターを今も使っている。当時の値段で1万3千

円もしたが、教育学部の女子学生をボーカルにしてバ

ンドも組んだ。目指したのは「五つの赤い風船」で、

「遠い世界に」や「血まみれの鳩」等を得意とした。

 一方では、四条河原町や京都駅等に出かけ、フォー

クゲリラの一員として反戦ソングも手がけた。

 由美子も、その頃の歌は良く知っているが、ギター

は弾けない。

「宏幸たちが学園祭で最後に歌った「友よ」は、今で

も記憶に残っているわ。最高に盛り上ったわね」

「こんな曲も覚えているね・・♪フランシーヌの場合

は・・」

由美子と深い仲になるきっかけの夜に歌った替え歌の

原曲である。

「相変わらず歌は下手だけど、ギターテクニックはそ

れなりに上手いわね。少し教えてよ」

「それなりはないやろ。これでも指先が硬くなるまで

練習したんやで」

「お見それしました」

「この曲のコードは、CとFとG7のメジャーコード

と、Am、Dm、E7のマイナーコードの基本的なも

ので弾けるから初心者向きなんや。最初はビートでジ

ャンジャンと弾こうや」

「Cはこうね。次はAmでFに移る・・」

「なかなかいけるやないか」

「でも、指がついていかないわ」

「最初はゆっくりでええから」

 しばらく由美子の練習が続き、疲れたので宏幸が変

わり、次はカポタストを2フレに付けて、

「♪海は素敵だなぁ・・」

「この曲もCコードからね始まるのね」

「本当はDコードからやが、こうゆうふうにカポを使

うと、基本コードのうちの5つだけでいいのや。先に

楽譜のコードを書き換えるておくと便利なんや」

「どうやって判断するの?」

「たいがいの曲は先頭のコードを見て決める。Fやっ

たらCから半音で数えて5個上やから、5フレット目

にカポタスト付けるとCから弾けるのや」

「便利ね。この教本に載ってるのね」

と、ヤングセンスという音楽雑誌をペラペラめくって

いくが、

「そんなテクニックは載ってへんよ。これは音楽の基

本や。BからCと、EからFが半音上がりで、その他

は半音の倍、全音と覚えておけば簡単に変えられるか

ら」

 次も由美子が知っている曲である。

「♪イムジンガン マツムンム プノプード・・」

「イムジン河ね。原語を良く覚えたね」

「フォークルが歌って直ぐに放送禁止になった曲やっ

たから、仲間との口移しで覚えたんや。発音が悪いか

も知れんが・・」

「何故放送禁止になったんだったかしら?」

「原曲は北朝鮮で作られたもんで、発売元の某レコー

ド会社が、南での輸出家電の売れ行きを心配して自粛

した、となっているが、相当な政治的圧力があったら

しいで。それで余計にアングラ化したんやろ」

 そして、女の子が泣いて喜ぶアルペジオで、赤い鳥

の「竹田の子守唄」を弾き出すと、由美子がうっとり

とし出してくる。

 次は、由美子も知っているフォーセインツの「小さ

な日記」を、二人でハモる。

「・・♪山に、やまにぃ、初雪、はつゆき、降るう頃

に・・」

 極め付きは、かぐや姫の「加茂の流れに」だ。弾き

終えるや、

「いいムードにもって行くのね。これでずいぶん女の

子を落してきたのね」

「人聞きの悪いこと言わんでくれる」


章末注記

(1)フォークル:ザ フォーククルセイダーズ


(参考文献)

明星ヤングセンス1969 VOL.5他  集英社



・・・婚約 1978年春 に続く。

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