関連作 世界でいちばん不幸で、いちばん幸福な少女 (著 今岡清)

2019.04/早川書房

<電子書籍> 有

【評】 ―


●そろそろ消えそうなおじいちゃんの思い出語り


栗本薫/中島梓の夫であった著者が、彼女の死後に書いた回顧録。『グイン・サーガ・ワールド』に掲載されたものに加筆を加えたもの。


大幅に加筆されているが、基本的な内容は『グイン・サーガ・ワールド』に掲載されていたものと変わらない。

つまりは夫婦で童女プレイをしていました等の告白と、でも自分のことは辛いのであまり話したくないと逃げを打っている、アレだ。

文量は増えたものの、結局、「若い頃の自分は怯懦であった」「梓も一時期は本気で離婚を考えていた」という、そうまで思わせるにいたった経緯については「なんかアル中っぽくなってた」程度で済ませ、具体的な悪行についてはまったく書いていない。


連載時の反応に対して「こんなことを暴露されて栗本薫が可哀想というご意見があったが、本人がすべて公開して良いと生前に言い残していた」と言い訳をしているが、他の人は知らないが自分が言いたいのはそうじゃない。

「反論できぬ相手のことを曝すなら自分もそれ以上に曝け出せ」ということだ。それが死者に関する文章を世に出すことへの、いわば文礼儀であり、あの連載は士道不覚悟であった、と自分は言いたい。

そういった欠点は、やはり本書でも直っていない。


また、作家の生前を語る本としては、徒然に書かれているためとりとめがなく、批判に対する言い訳めいた文章が多いため、本書だけを読んでも意味が伝わりにくいだろう。こういった意味でも一冊の本としてのクオリティは高くない。


ただし、以前に比べるとあまり責める気にはならない。それは数年前と比べて自分がより老い、より栗本薫から心が離れたからなのかもしれないが、それ以上に、文章から「終わってしまった人間」の匂いが濃厚に漂うからだ。


良くも悪くも著者が半生を栗本薫/中島梓に捧げ、振り回され、同時にうまい汁も啜り、「栗本薫の夫」という、いわば他者の従属物として生きてきたのは確かだろう。その自分の本体を失って数年経っている。この本の加筆部分から漂う空気は、そろそろこの世から消える人間のそれである。

そんな相手にこちらが強い感情をぶつけるのも、野暮というか虚しいというか、意味がないな、と思ってしまった。


なので、栗本薫を語る際のサブテキストとして、読みたい人は読めばいいのではないかな、となんか虚無的に思ってしまった。


ただ、ダイエットに対する、社会の発する病的なメッセージが云々それによるストレスが梓の寿命を縮めたのかもしれず云々、に関しては「いや、そういうんじゃなくてとりあえず運動しろよ。、走れデブ。それをせずに勝手にコンプレックス募らせてんじゃねえこのま怠惰な豚が」という気持ちになった。

まあ僕も最近ぶくぶく太っているのに走りたくないんですけどね……心がデブな人は肉体も太るから仕方ないね……。



一点、「へえ、やっぱり」と思ったのは、グイン・サーガを担当編集(つまり旦那)ごと引き抜こうと動いた他社があったが、断ったということ。

グインも大手出版社から出ていれば、様々なメディア展開がされて、いまとは違う残り方しただろうな……そもそもあそこまで作者の暴走をほっとかなかっただろうな……と常々思っていた身としては、なかなか思うところのある事実だった。

もっとも、そうなったら多分、自分が好きだったグイン・サーガとはまた違うものになっていたんだろうなあ……。


と、なんかとりとめがなく書き始めたらとりとめりのない文章になってしまったが、そんな感じの本でした。

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