関連作『漫画版 グイン・サーガ 七人の魔道師』(作画:柳澤一明)

2001.03~2003.01/メディアファクトリー MFコミックス 全三巻


● 手堅くまとめた丁寧なコミカライズ(謎のシルヴィア推し)


『グイン・サーガ外伝1 七人の魔道師』のコミカライズ作品。

『コミックフラッパー』誌上で2000年7月から2003年1月まで連載された。


 作画の柳澤一明は多数の原作付き漫画を手がける実績を持つ実力派であり、自分にとっては初期の『コミックビーム』およびその前身となる『ファミコミ』で描いていた『真・女神転生』シリーズの作者として馴染み深い。桜玉吉をはじめとしたギャグ漫画目当てで『コミックビーム』を購入していたものの、あまりにもハイブロウなサブカル漫画だらけでまったく意図のわからない作品達に困惑する中で、ゲームをベースに大胆なアレンジを加えたアクションストーリーである氏の『真・女神転生カーン』は、数少ない意味のわかる作品として貴重だったのだ。

 また、この漫画の縁でセガサターンで発売されたメガテンシリーズ番外編的な作品である『RONDE ~輪舞曲~』を手掛けたことも思い出深い。この作品は体験版を配布したら予約キャンセルが大量発生したという都市伝説で知られるしょぼすぎるグラフィックが一部の好事家に有名な作品で、柳澤氏が手がけたキャラたちは作中で見る影もない無残な姿になっていた。当然ぼくも体験版をプレイしてスルー余裕でした。

 しかしメガテンシリーズをほとんどプレイしているシリーズファンとして、ロンドをプレイしなかったことはいまだに心のどこかにひっかかっており、このままではロンドをプレイしなかったことを悔いながら死ぬことになるかもしれないと思いつつ、明らかに時間の無駄だからプレイしないままでいるのである。


 サターン人としての血が騒いで余計なことをだらだらと語ったが『七人の魔道師』である。

 柳澤氏の絵は多少クセが強いものの、画力や表現力に関しては申し分なく、ことに化け物どもを描くことに関しては存分にその実力を発揮しており、七人の魔道師たちによる妖怪大戦争を描くこのダーク・ファンタジーを描くには十分な人材である。ことに原作でも迫力のある口絵が印象に残った五人の魔道師が対峙するシーンは、加藤氏とは異なるものの漫画らしいケレン味のある一コマとなっている。

 一方で今作のヒロインとなるヴァルーサは原作より若返り、ミドルティーンあたりの少女のような風貌にされているのは、いかにも漫画的である。良いか悪いかは好き好きであるが、あまりヴァルーサっぽくは感じない。おそらく魔女に飼われ客を取らされていた踊り子という設定自体を、漫画だから曖昧にした影響だろう。

 

 ストーリーは基本的に原作に忠実だが、グインのヒーローとしての側面が強まるようにいくつかの改変がされている。原作では魔道師たちのバトルロイヤルを静観していたのに、ほとんどの魔道師をグインがぶった切っているのが主な改変ポイントだ。また、こうしてグインが強く描かれているためか、原作よりもヴァルーサやイェライシャに助けられることが少なく、そのためヴァルーサの存在が絵的に華を添えるだけなのがほとんどで、なんのためにいるのかいまいちわからないシーンも多い。

 さらに原作では魔道師に見せられた幻影でだけの登場であったシルヴィアの出番が大幅に増えており、幻影ではなく直でグインを罵ったり敵の魔道師に囚われたりヴァルーサ相手にキャット・ファイトしたり美人という設定になっていたりイェライシャに尻を凝視されたりと、なんかわからないけどとにかく推されている。これもまたヴァルーサの影が薄くなる一因となっている。


 こうした変更点は一長一短ではあるが、小説と漫画ではストーリーの見せ方が変わるのは当然であり、ことに長台詞での説明が多い栗本薫作品をそのまんまコミカライズするとえらい顔漫画になってしまうのは自明の理なので、この程度の変更にとどめて全体のストーリーが変わっていないのは、かなり原作に忠実で丁寧なコミカライズと云えるのではなかろうか。

 また絵にすることによって迫力が大幅に増しているシーンや設定も多く、矮人エイラハの顔がサイロン上空を覆い尽くすところや、謎の巨大モノリスが屹立するところなどは原作よりもかなりのインパクトのある良いシーンとなっている。また主人公であるグインこそがこの作品の要と心得たのか、グインの作画には全体的に力が入っており、カッコイイ。

 原作だといつもの謎パワーワンパンで終わったラストバトルも、大筋は変えずに漫画らしい見せ場のあるシーンへと変わり、長い物語のワンエピソードに過ぎない原作から、一つの作品としての満足感を与えられるものへ変えようという意図が感じられる。多少説明不足の感はあるものの、全三巻という長さも長からず短からず適量だ。


 総合すると、栗本薫作品のコミカライズとしては最上位にあたる丁寧な仕事っぷりだと云えるだろう。ロリヴァルーサが受け入れられる原作ファンなら楽しく読めるのではなかろうか。

 それにしても、なんで2000年なんていう中途半端な時期に漫画化されたんだろう……。あまりにもさりげなくはじまっていたから、本屋で漫画雑誌立ち読みしてて存在に気づいた時「アイエエエエ! グイン!? グインナンデ!?」とうろたえた記憶があるよ……。

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