関連作『ダークハンター』(テレビゲーム)

上巻 1997.04/コーエー

下巻 1997.05/コーエー


【評】クソゲー


● 栗本薫で英語を学べる!(人っているの?)


 セガサターン、プレイステーション、ウィンドウズ95、マッキントッシュで発売されたマルティメディア英語体験ソフト。

 原作:栗本薫、キャラクターデザイン:上條淳士


 ここでいう原作とは栗本薫の小説をもとにゲームを作ったという意味ではなく、ゲーム用にストーリーを書き下ろしたというものである。なお、脚本は別の人が書いているので原作というより原案に近い。

 マルティメディア英語体験ソフトというのはなにかというと、基本的にはアニメをボーっと見て、たまにクソつまらない戦闘や不快なだけのダンジョンを彷徨うゲームなのだが、台詞が音声・字幕ともに英語と日本語を選べ、あとなんか忘れたけどいろいろ機能があって、繰り返しプレイすることによって英語を学習できるというソフトである。

 なお、今作はそのマルティメディア英語体験ソフトのシリーズ第二作目であり、一作目の『EMIT』は原作:赤川次郎、キャラクターデザイン:いのまたむつみ、音楽:小室哲哉、歌:篠原涼子という力の入れっぷりだった。で、二作目となる本作は「赤川次郎の次は栗本薫だよね」というカドカワノベルス的な思考が感じられる人選である。多分八十年代オタ文化で育った人が作った人が発案したゲームなのだろう。なお、今作が売れなかったのか、三作目は出なかった。


 お話の方は、主人公の女子高生がなんか忘れたけど事情があって変な学園に通うことになって、そしたらその学園に「明らかにお前ら高校生じゃないだろ」っていう、吉川晃司のような肩幅を持つ半裸族の美少年と、蓮舫みたいな髪型の白人女が転校してきて、裸族は実は化物に殺された家族の仇を狙う妖魔ハンターで、女はCIAのエージェントであり、この学園は異次元からの侵略を受けているんだなんだってー!というお話。

 話のノリとしては栗本薫作品で言うなら初期の『魔界水滸伝』に近いと云えなくもないが、学園が舞台なこともありどちらかというと菊地秀行である。


 ストーリーは基本的にフルアニメーションで進行していく。

 このアニメが「当時のゲーム機の基準ではがんばっているんだけど普通のアニメと比べるとめっちゃしょぼい」というリアルタイム以外での判定に困る代物である。動きがガクガクしてるし、棒立ちシーンばっかりだし、ロード時間がこまめに入ってシーンが細切れになるし、背景フリー素材かよって出来だし。でも、これでも上條淳士の画風を再現しようとしているだけがんばっているし、動画取込みで作っていないので、けっこうな手間がかかっているはずなのだ。でもいま見るとどう考えてもしょぼいのだ……。前作の『EMIT』の方がいのまた美少女ガン推しであった分、マシに見えるのだ……。


 文章は一文ごとに読み返しができるのだが、そのために一文ごとに数秒の読み込みが入るため、テンポが非常に悪い。そして合間に適当なクリックミニゲーム(クソつまらない)と適当なダンジョン(クソつまらない)が入ってくる。これらは本当につまらないのだが、製作者もそれをわかっているのか、初回からスキップできるという親切仕様である。

 こうしたプレイ時間を水増しさせるような仕掛けがありつつも、クリアまでにかかる時間は上巻二時間、下巻二時間程度である。このことから察することができるように、ストーリーは非常に短いし、薄い。小説で言うと中編くらいだろうか? なんのひねりもなく主人公の女子高生がピンチになり、なんのひねりもなく妖魔ハンターが助けてくれて、それを二、三回繰り返して終わる。ぬめぬめした化け物に女子高生が襲われているのにサービスのエロシーンすらないので「だから菊地秀行先生にしろって云ったのに!(云ってない)」という気分になる。いや、キャラデザ上條淳士だから女性ユーザー受け狙ったんだろうし「ボタンの留め方、教えてあげようか?」と云いたくなる前はだけ男の存在がサービスシーンなのかもしれないが。


 そんなわけで、栗本薫のストーリー目当てにプレイすると「つまらない」としか云いようがない。

 どの程度の設定が企画段階であらかじめ決まってて、栗本薫がどの程度ストーリー作りをしたのかはわからないが、原作だけで脚本は別という時点で「なぜそれで栗本薫に頼んだんだよ……」という気分にしかならない。なにせ作家としての栗本薫に一番足りていないのは、あらすじを作る能力、ストーリー構成力なので、中途半端にかかわらせてもありきたりなものが出来上がってくるに決まっているのだ。やはり脚本も薫にお願いして、あの悪夢のような説明長台詞やストーカーのうざい心情吐露台詞を英文にして学ばせてほしかったものである。

 なお、英語学習キットとしての本作の出来は、知らない。学ぶ気がまったくなく、日本語音声日本語字幕でプレイしたからだ。


 栗本薫は今作について「ゲーム好きの息子に与えたが、すぐにやらなくなってまた三国志とかやっていた」というようなことをどこかに書いていた。お母さん、多分、それつまらなかったとかそういうんじゃなくて、一瞬でクリアしてしまっただけだと思うよ……。何回もプレイしたくなるストーリーじゃないしね……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る