関連作『栗本薫・中島梓 ―JUNEからグイン・サーガまで―(編:堀江あき子)』
2010.07/河出書房新社
<電子書籍> 無
【評】うな
● 栗本薫/中島梓の軌跡を手堅くまとめた良資料
栗本薫が没した翌年に出された、彼女の作家としての軌跡を一冊にまとめた本。
編者の堀江あき子は弥生美術館学芸員。栗本薫とのつきあいは二〇〇七年春に、弥生美術館で「武部本一郎展」を行う際、栗本薫の所蔵する絵画の出品をお願いして以来とのこと。決して深いつきあいとは云えないが、この直後に栗本薫の膵臓癌が発覚したこと、この出会いが縁で死後に弥生美術館で栗本薫/中島梓展があり、それに合わせて本書が刊行されたことを考えると、天の配剤というものを信じたくなるような奇縁である。
さておき、本書の内容である。
前述の通り、編者は長年の栗本・中島ファンというわけではない。それゆえに、強い思い入れや熱意のある本に仕上がっているとは言い難い。が、逆にそうであるからこそ、無軌道な栗本薫の三十年の軌跡を、フラットな視線で丁寧にまとめあげている。グイン・サーガとJUNE物を中心としたのも、公平な目線で見た時、その二つこそが彼女の特筆すべき功績であると判断したからだろう。
基本的には、代表的な作品の紹介するとともに関連イラストを掲載し、場合によっては生原稿の一部や創作ノートを掲載している。これら手書きのものや、プライベートな手紙・メモなどは本書でしかお目にかかれないような代物であり、満足のいく仕事ぶり。特に手書きイラストが多く掲載されており、時代を考えてもプロレベルとは云えないが、漫画少女らしいなかなかの達者ぶりが微笑ましい。
また作品に関するイラストの多くがカラーで掲載されているのも嬉しい配慮。ことに雑誌掲載時のみ使用されたものがいくつも見られたのは純粋に嬉しい。むしろもっと見たかった。
中島梓の書いたエッセイのうち、雑誌掲載だけのものや他の作家の著作に寄稿したものがいくつか見られるのも嬉しい配慮。
『久世光彦様お慕い申し上げております』『「悲しきチェイサー」始末記』などはデビュー直後の栗本薫の若さが微笑ましいし、『木原敏江論』や『森茉莉との出会い』『武部本一郎――大いなる「懐かしさ」』には愛する作家への敬意と愛情が感じられる。
いずれも短い文章だが、栗本薫を偲ぶのに良いものをセレクションしている。
栗本薫自身はもちろんのこと、自宅や私室、身の回りの調度品などの写真も複数掲載されており、これもまた滅多に見られないもの。
栗本薫がコレクションしていた武部本一郎のイラストに六ページを費やしているのは、これはちょっと編者の趣味なんじゃないかな、という気がする。触れるにしても限られた紙幅を使いすぎじゃないかな……。
巻末には栗本薫/中島梓の略歴が四ページと、ファンクラブ「薫の会」作成による著作一覧が八ページ。この一覧を自分が有効活用しているのはご覧の通りである。
全体的に見ると、編者が美術館学芸員であるためかイラストや絵画にいささか偏った編集ではあるものの、内容には特に粗もなく、栗本薫/中島梓という作家を俯瞰するにあたって無難な仕上がりと云える。最大の不満は一三〇弱というページ数か。約四〇〇冊におよび栗本薫の軌跡を追うには純粋に紙幅が足りず、いささか駆け足には感じる。
特に伊集院大介シリーズや魔界水滸伝に関して二ページで軽く触れるに留まったのは、紙幅の都合であろうとはいえ、残念である。
以上のようにもおおむね問題のない手堅い資料本であると云えるが、栗本薫自身が常軌を逸した作家であったため、個人的にはもっとファンゆえの偏執に満ちた本が見たかった気もする。
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