400 木蓮荘綺譚 ―伊集院大介の不思議な旅―

2008.06/講談社

2012.05/講談社文庫


【評】う


● そして薫も旅立った 


 伊集院大介が「ああ鬱だ鬱だ。仕事なんてしたくなーい」と近所をふらふらしてたら、木蓮がやたらたくさん咲いている洋館があって、そこの八十歳になるお婆さんと仲良くなったけど、その辺りでは二十年前から子供が行方不明になるって聞いてめんどくさいなーと思いながら仕事をはじめたよ。


 ミステリーになってないのはいつも通りのことだからいいとして。

 文章がぐたぐだなのもいつも通りだからいいとして。

 伊集院さんはいつからこんないけすかないうざキャラになってしまったんだろう……


 今作では、ひさしぶりに冒頭からずっと伊集院大介が出ずっぱりで、事件も三分の一の時点で起こっていたし、そういう意味ではシリーズ的にはわりとまともな作品だった。

 はずなんだが、とにかく伊集院さんがうざい。

 かつてあんなに優しかったはずの伊集院さんが、冒頭から「散歩しているだけで、今すれちがった夫婦は実は仲悪いんだなー、とか観察力が良すぎてわかっちゃうから辛い」とか気持ちわるくもいけすかない妄想垂れ流しはじめるし、とにかく言葉の端々や思考の一つ一つがきもいしうざい。つうか素で思い上がってるし。

 そもそもなんだよ不思議な旅って。いまどきニルスでも不思議な旅なんて恥ずかしくてようできんわいな。イライラするなあ、もう。


 で、いつも通りにネタバレしていくんだけど。

 乙女チックすぎて結婚できなかった老婆がボケて「生徒は可愛がっててもいつかいなくなっちゃうからいやだわー」と思ってたので、デブスで老婆に依存しているお手伝いさんがかわいい子を誘拐して殺したりしてましたっていう、犯人的にはひねりもくそもない話なんですが。

 栗本先生はほんと中途半端な私小説しか書かないな。

 そもそもこんなに加齢臭のひどいミステリーとかそうはないわ。なんで登場人物がみんなして五十代六十代で、年上は八十代とかなんだよ。お前は自分と同じ年代のキャラしか書きたくないんかいな。で、栗本先生の五十代六十代のリアリティのなさときたらホントに気持ち悪いとしかいいようがないので、いったいなにがしたいのかさっぱりだ。

 んでもって、あれですか、生徒がみんないなくなる云々はワークショップや小説道場での実感ですか? で、以前からいろんな作品に出てくるデブスのお手伝いさんって、要するに中島梓のアシスタントさんですよね。そんなに彼女の生き方に対して腹に一物あるんなら本人に云ってやれ、本人に。

 で、お手伝いさんの助けもあって、自分のお美しい幻想の世界で人に迷惑をかけながら幸せな人生って、そうですか栗本先生は自分がそうなってるとお気づきですか。

 最近の栗本先生の話はほんと、そういう自分を告発するような話ばっかりで、見ていて苦しいよ。

 いや、これは当人ではなく実家をモデルにしているのではないかという意見も目にしたことがあるが、批判的皮肉的に描いていたものと同じ末路を辿っているなんて怖いわ悲しいわで余計に性質悪いわ。


 残念ながらもう先も長くないんだろうし、幸せなら別にそれでいいんだけどさー。

 自分で自分の人生がウソだって、ほんとは醜くみじめなんだって、やたらめったら色んな創作物で書いてるわけだしさー、認めて作品に昇華しようよ、それを。こんな無意識に垂れ流してしまった危機感でなくさ。

 あと一冊くらい、渾身の作品書く時間はあるはずでしょうに。

 なーんかホント、薫の近作は作者自体が実は自分がみじめだと感じ取っているのがダダ漏れで、読んでいて辛いよ。

 幸せであれ。

 人として無理なら、作家として幸せであれ。

 作家にとっての誉れとはなんであるのか、もう一度考え直しなよ、ホント。こんな若僧にこんな暴言吐かせてんじゃねーよ。泣かせろよ、俺を。震えさせろよ、俺を。


 ……と思っている間に亡くなってしまい、結局これが伊集院シリーズの最終作になってしまったとさ……

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