388 浪漫之友 11号(同人誌)

2007.10/天狼プロダクション

<電子書籍> 無

【評】 ―


● 今度こそグッバイ、ラストストーカー

 栗本薫個人同人誌第十一号。

『Les Vampires Blue―ヴァンパイア・ワルツ―後篇』『ヴァイス・トロピカル 第九回』『副長 第十一回』収録


『Les Vampires Blue―ヴァンパイア・ワルツ―後篇』

「ああん、早くチンコ入れて……観られているだけなんて余計に感じちゃうゥゥ!」

「このド淫乱め。よしこの薔薇の花を入れろ」

「ああん、棘が刺さって痛いけど感じちゃうゥゥ!」

「よーし、次はこの太いロウソクだ。えい」

「ああん、長すぎて腸が傷ついて感じちゃうゥゥ!」

「よし、こうなったら挿入だ。愛しすぎていつか殺しそうで怖い」

「ああん、伯爵のものが一番感じちゃうゥゥゥ!」

「愛しすぎていつか殺しそうで怖い(本日二度目)」

 ~完~


 ちょっと壮大な浪漫すぎてついていくのが難しいですね……なんでも入る魔法の肛門やあ……。

 ていうか基本的に先に掲載した『狂った月』となにも変わらないストーリーですよね……エロ小説だとしても、もうちょっとプレイ内容変えてもいいんじゃないですか……?栗本薫の体調不良により、今後のロマトモはすでに原稿が1800枚書き上がっているこの『ヴァンパイア・サーガ』のお蔵出しが中心になるのだが、ずっとこの異物挿入からの愛しすぎて殺しそうで辛いの繰り返しなのだろうか?

 そもそもこのシリーズの大本になった舞台『ヴァンパイア・シャッフル』ってどんな話なのさ? と思って調べてみると「古いシャトーで耽美な生活に耽る吸血鬼と従者のもとに、コメディ体質のヴァンパイア・ハンターがあらわれ、それを嚆矢に次へとコメディな怪物たちがあらわれる。果たして吸血鬼はコメディに打ち勝ち耽美することができるのか……?」という感じのドタバタコメディらしい。

 なるほど、そもそもこの吸血鬼さまはありがち耽美をパロディ化した存在なのか。ていうかこの舞台アレか。演劇誌がなんかで「『ロッキー・ホラー・ショー』のモロパクじゃん」ってツッコまれて梓が「そんなミュージカル観たことないもん!だからパクリじゃないもん!」って反論して失笑されたアレか。いや改めて設定見比べるとこれ本当に丸パクじゃん……。

 ただ、ぼくは薫はパクリ元を平然と口にしてしまうタイプだと思うので、実際に『ロッキー・ホラー・ショー』自体を観たことはないと信じてるよ。ただ、当時のサブカル界隈でかなり話題になったり影響受けたような作風のものがあったから、それらいわゆる二次創作の影響を受けた三次創作として作ったんだろうなって思うね……まあそもそもミュージカル劇団主宰している人間が『ロッキー・ホラー・ショー』を知らないってほうが恥ずかしいとは思うけどね……。


 その辺の恥ずかしい経緯はおいとくとして、舞台では伯爵さまは『グイン・サーガ 炎の群像』でナリス役だった人で、ジルベール従者はヴァレリウス役だった人が演じたのか。ヴァレ×ナリの次はナリ×ヴァレだってことか。やたらと「役者そのものイメージして書いたわけじゃないから!今西良もジュリーきっかけで作ったけど最後には別物になってたから!」と云ってるけど、ジョニーは気持ち悪い性格はジュリーとは似ても似つかないけど、エピソードは全部ジュリーそのまんまじゃないですか……。ていうか最終的には別物になったといっても、初期作品はやっぱりナマモノ同人として作っていたということだから、この話は完全に役者二人のイメージで書いてますよね……。いや、それは別にいいんですけどね、そうさ萌えだけは誰も奪えない心の翼だから……


 しかし、そんなわけでもともとは耽美の戯画化であったキャラで、なぜかシリアスをやろうとしているのがこのシリーズなりか……。経緯としては『紫音と綺羅』とまったくおんなじだな……無茶しやがって……。ギャグでホモ役やらせた役者に想像以上に萌えてしまったからエロシーンをやらせたくてたまらなくなってしまったんだね……。

 まあ、そんな作品だから「あの役者二人でSMセックスを見たい」という願望のある人以外には届かなくても、仕方ないんじゃないかな……。ナマモノ同人ってそういうものだものね……。愛しすぎて殺しそうで辛くても仕方ないよね……。



『ヴァイス・トロピカル 第九回』

 いますぐ乱交しないと悪魔の手先として殺す、という村人たちの追求を適当な話術でかわしたティンギは、洞窟におきっぱの尻穴を思い出しながら妄想してうつらうつらしていると、夜這いをかけられてしゃぶられていることに気づきました。「一回だけ。口だけでいいから」と云われて仕方ないなあと「精液を飲ませてやる」としぶしぶ承諾しました。続く


 お久しぶりですねヴァイス・トロピカルさん……でも特にストーリーは進んでいないし夜這いフェラされてるだけで今度こそさよならですね……。さらばゴア語……なるべく早く忘れて脳の容量の無駄遣いにならないようにするよ……。



『副長 第十一回』

 甲陽鎮撫隊は壊滅し、わずか三十人ばかりの残党は江戸へ落ち延びる。だが指揮をあやまり、落ちぶれ、無責任な行動をとってなお頭領ぶる近藤に、ついに永倉と原田は愛想をつかし会津へと去る。たった一人となった近藤の元から島田も去ろうとするが、土方との再会を願い、去就に迷う――


 ふぁ~泣けるな~近藤勇が惨めすぎてでも完全に自業自得で泣けるなぁ~。

「勝手に会津行くとか決めるな!わいが決めるんや!「おれら別にあんたの家臣じゃないし金ももらってないんだけど」「家臣として認めるなら会津に連れてってやる」「なんやこいつアホくさ」ってみんなが去っていくの、完全にアホで泣けるなぁ~。とっくに転職した元部下をいつまでも自分の下僕みたいに思っている田舎のおっさんみたいで泣けるなぁ~。

 そしてたった一人になって、土気色の顔をしながら、床柱を背に座り込んだまま動かない近藤の姿が、呆れた展開と言動を繰り返して読者がどんどん去っていったのに意地になって自分の失敗を認めなかった栗本薫自身とだぶって見えて泣けるなぁ~。こういう無駄なプライドで自滅していく人物を書くのが薫はけっこう上手いんだけど、やっぱり自覚症状あったのかなあなかったのかなあ。文章には完全に滲み出てるんだけどなあ。


 そんな近藤のもとから「俺はラブリー土方エンジェル待ちなだけで近藤さんのたった一人の部下だと思われるの嫌だから残りたくないなあ。でもここから去ったら土方さんと再会できなくなるなあ」と家の前うろうろしたらちょうど土方さんがやってきて「こ、これは因縁だ!運命の赤い糸だ!」という気持ち悪いことを云い出す島田ニキは最後の最後まで見事なストーカー心理の体現者でしたよ……。

 あとは「数日ぶりに見た土方さんマジ天使」というストーカー視点の描写がダラダラ続いて多少ゲップが出るが

 よーし江戸城に入って徹底抗戦だ!→無血開城で膝から崩れそうになる土方

 とりあえず兵は集まったし訓練だ→官軍「そこにいるの近藤勇だろ。出頭しなさい」→近藤「もう切腹するもん!」

 というコントのような史実が楽しいくだりである。この時期の新撰組(というか元新撰組)の大局が見えないで悪手ばかりを引いて次から次へと底が抜けていく感じは最高だ。基本、史実そのまんまとはいえ、薫も面白い歴史物かけるじゃん!途中で沖田を中心としたホモの痴情のもつれを入れないで、島田魁だけ変態ストーカーだったという設定で新撰組を描いたものとするならけっこういけるやん!


 まあ、ここで中絶なんですけどね。

 最晩年の作品である本作で、島田魁は存分に気持ち悪さと乙女心を撒き散らしてくれた。完結しなかったのは残念であるが、文章が劣化したと云われて久しい末期ですら、ストーカーを書くと薫は輝くということが証明されたのは素晴らしいことである。やはり薫はルサンチマンを書いてこその作家だったのだ。

 今度こそさらば島田魁――ルサンチマンとコンプレックスと性欲の栗本薫のラストストーカーよ――そこに留まり続けよ――お前は気持ち悪い――


 おっさんのレビューは、これでおしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る