385 浪漫之友 10号(同人誌)

2007.07/天狼プロダクション

<電子書籍> 無

【評】 ―


●まださらばしゃなかった島田ストーカーニキ


 栗本薫個人同人誌第十号。

『Les Vampires Blue―ヴァンパイア・ワルツ―前編』『矢代俊一シリーズ 座敷わらし』『副長 第十回』収録


『Les Vampires Blue―ヴァンパイア・ワルツ―前編』

 アルカード伯爵がおでかけするというので従者のクリストファーは「ああん、チンコ欲しい~」と自分のチンコをこすこすしてたら狼男が通りかかったので捕まえて「足なめろ。チンコなめろ。あ、いっちゃう――離せ、お前の口になんか出してやるもんか」とクソめんどくさいオナニーしているうちに伯爵が帰ってきたので「やった!チンコ!」と喜んでこれかららハメてもらうことになりました。続く。


『ヴァンパイア・サーガ』の時間軸的にはどこにあたるのかわからないが、どうも次作舞台の同人として最初に書かれたものらしい。なにが第一話なんだかさっぱりわからん話だな!まあ設定はポーの一族でキャラがジルベールなだけだからどこから読んでもわかるんだけど……。

 どうもお仲間のヴァンピールになると、定期的にアルカード伯爵とセックスしなくてはいけないらしい。それを「融合」とかなんとかいって儀式にしているけど、ただのカルトセックス教団だこれ……。

基本的にずっとジルベールみたいなのがチンコこすこすしてるだけの話なので、そんなにずっとコスってたら痛くない?という心配ばかりが募る話であった。

 クライマックスはアルカード伯爵の名台詞である。

「もっと尻を突出してみろ――。私を欲情させてみるがいい。そのへんの農夫の男のように」


 おそらく「やめて!私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに!」の反語だと思われるが、欲情の模範的対象が「農夫の男」である辺り、アルカード伯爵はなかなか渋い性癖の持ち主であると思われる。多分稲を植えたりするときに中腰になって尻を突き出しドッコイショする男の姿にチンコビンビン丸なのだろうな伯爵。う~ん、メニアック!声に出して読みたい日本語「私を欲情させてみるがいい。そのへんの農夫の男のように!そのへんの農夫の男のように!」



『矢代俊一シリーズ 座敷わらし』

 ラジオ出演を終えた矢代俊一が局を出ようとすると、ロビーで見知らぬ男に親しげに声をかけられる。どうやら25年前に二ヶ月だけ働いたキャバレーの同僚らしいのだが、顔も名前も思い出せない――


 単に「え、誰?」「~~だよ」「あー、久しぶりだからわかんなかった」で済むところを、なぜか「誰?」と云えずにいろんな探りを入れていく矢代俊一はめんどくせー野郎だな、という気持ちになるだけの掌編。

 まあ、なかなか「誰?」と言い出しづらい空気というのはあるし、有名人となるとさらにありそうだし、探り探り「あいつかな?」って名前で呼んでみたら「ああ、あいつはいま~~やってんだよ」と別人の話聞かされるのは、あるあるネタと云えなくもない。でもだからなんなのって感じがするし、面倒だから素直に聞けよ、と思った。

 そして終盤になって突然に「実はおれあのころお前のこと好きだったんだよね~寝てるときにチンコ触ってビックリさせたのおれおれ」と云いだして完全にホラーである。ホモ云々以前にあかんやろ、それ。薫から時折湧き出てくる睡眠姦の思想なんなの?

 結局、名刺貰って名前わかったけど誰だか思い出せなかったから「あれはキャバレーの座敷わらしだったのかな?」というよくわからない発想でクスクス笑う矢代俊一だったが、寝てるときにチンコ触ってくる座敷わらしなんて嫌や。ていうかそれ多分別の妖怪やで?



『副長 第十回』

 幕軍の先鋒として甲府城を抑えるために出陣する甲陽鎮撫隊。だが官軍も甲府城を目指して進軍しており、一刻も早くたどり着かねばならぬという状況の中、近藤は江戸を出てすぐに宿をとって芸者を総揚げしてどんちゃん騒ぎ。さらに途中で自分の田舎によって錦を飾ってどんちゃん騒ぎ。そんなことをしていたら先に入城されて一瞬で負けました。続く。


 ごめん、前巻の感想で「さらば」とか云ったけど、まだ続いてた……。というかさらにまだもう一回あるみたい。しかもヴァイス・トロピカルもあと一回あるみたい……。自分で調べて起きながら全然把握していないというこの……。

 しかしどんな小説で何度読んでもこの甲陽鎮撫隊のひどさは最高だ。一から十まで全部ひどい。これぞ調子に乗った田舎の中小企業のワンマン社長の典型である近藤勇の真骨頂だ。ご存じない方は是非、他の作家の商業小説でこのくだりを読んでもらいたい。

 そして近藤を冷たい目で見ながら、そんな近藤の云うがままになっている土方に対して「いや、きっとマイスイートエンジェルはわかったうえでなにか思うところがあってやっているんだ!」と自分に言い聞かせている島田ニキの安定の気持ち悪い乙女心である。さすがにこの時の近藤・土方の奇行と言うか田舎ヤンキーぶりをフォローするのは難しいよ乙女ニキ……。

 近藤のダメさと、それをフォローするために奔走する土方、二人に対してかなりの亀裂が入りつつも情で最後までつきあうつもりの永倉・原田と、意外なほどにこの辺りの肝となる古参組のややこしい関係は、くどくない程度にしっかりと書けている。戦ったともいえないレベルで一瞬で潰走してしょぼくれる近藤に、呆れながらも肩に手をおいてはげます永倉の姿は漢である。

 そんな永倉の複雑な気持ちを「もしかして永倉さんは藤堂が性的な意味も含めて好きだったのかも……」と自分のレベルに引き下げて妄想している島田ニキのキモさもバッチリである。基本史実に忠実に進めながら、ストーカー視点の気持ち悪い妄想で解釈していくというパターンは、もしかしたら栗本薫にしかできない歴史小説の書き方だったのではあるまいか?司馬史観のように栗本史観を確立できたのではあるまいか?いや、確立できたとしても商業的には成立しない気がするけど、ぼくはこのノリで歴史上のいろんな人物がキモいストーカーとなる歴史小説が読みたかったですね……。

 次回で今度こそ中絶となるわけだが、このペースなら近藤死亡まではいけるかな?そこまでは進んでいて欲しい。



『ヴァンパイア・サーガ』シリーズ、いまのところ「エドガーが出会ったのがアランじゃなくてジルベールだったらしんどくない?」「わかる。それでエドガーが大人だったらもう無理」「マジ無理。しんどい」という性欲だけで書かれた二次創作にしか見えないのだが、いろんな意味で大丈夫だろうか?

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