378 浪漫之友 8号(同人誌)

2007.01/天狼プロダクション

<電子書籍> 無

【評】 ―


 栗本薫個人同人誌第八号。

『狂った月 後編』『ヴァイス・トロピカル 第八回』『副長 第八回』収録


『狂った月 後編』

 クリストファが狼男にレイプされていたらいつのまにかアルカード伯爵が帰ってきていて「レイプ?お前が誘ったんだろ。レイプだったら舌噛んでるはずだし」と云われてなぜか「たしかに」と納得して罰として伯爵に殺されることになりましたが、いざとなったら伯爵はずーっと独り言を言い続けた挙句「やっぱやめた。もうお前城から出てけや」とか云いだしたので「ノン!だったら殺して」とか云うので尻穴にワイン瓶をグイグイ入れるプレイをして気絶したので「愛しすぎていつか裏切られそうで辛い……狼男が襲ったのもわいの仕業なんやで?」と最低なことをつぶやきました。おしまい。


 いつみても栗本先生の攻めキャラはおセッセの最中に気持ち悪い独り言をいいすぎだと思いました。そして相手を試しつづける最低のクソ女そのものだな、と思いました。

 まあ基本的におセッセしているだけのエロ同人なので、萌えツボのちがう人間には面白くなくてもしょうがないのですが、それにしても薫は異物挿入が好きすぎてちょっとついていけませんね。全体的に薫のキャラは独り言ばかり云ってないでもっと相手と会話するべきだな、と思います。エロになると本当に独り言しか云わなくなるからね……。

 ところでいま気づいたのですが2004年に出版された『六道ヶ辻 たまゆらの鏡―大正ヴァンパイア伝説』に出てくるアルカード伯爵ってこの『ヴァンパイア・サーガ』のと同一人物ですよね。このシリーズは96年から書いてたけどナマモノ同人だから隠していたもので、つまり本人とごく一部の知り合いにしかわからない形で六道ヶ辻とこのシリーズをクロスオーバーしたくてむ書いてたんですね……道理で突然六道ヶ辻なのにほとんど大導寺一族が関係しなかったり、終盤で唐突に出てきた大導寺竜介がヴァンパイア・ハンターになってて「は?そんなキャラだったっけ?」という気分になると思ったら、このシリーズを表舞台にチラッチラッしたくて書いたものだったのね……。

 あの作品の反響が良ければ、商業作品としてこの『ヴァンパイア・サーガ』シリーズを出したかったんじゃないかな……。結局、こうして同人誌での発表となってしまったわけですが。

 切ない……。『わが心のフラッシュマン』で見た目がちゃちだから作品そのものよりもどうしても製作者や役者の裏事情を想像してしまうと梓は云っていたけど、本当にその通りだね……作品に夢中になれないと余計なこと想像しちゃうよね……梓もそうだったんだからぼくがそうなってもおかしくないよね……?



『ヴァイス・トロピカル 第八回』

 村のみんなとホモセックスするか、昨日どこでなにをしていたのか白状するかを迫られるティンギ。しかしなぜか拾った尻穴のことをだれかに云いたくはなく、しかしもはや別の男とホモセックスをしたくはなくなっていた。だが口を割らないティンギに、村の掟を破ったのではないかという疑惑がかけられる――


 二人を囲んで「ホモセックスしろホモセックスしろ」と住人たちがまるで「セックスしないと出られない部屋」に推しカップルを入れた腐女子のようである。

 散々ただの頭のわるいエロシーンが続いて辛かったが、セックスをただの快楽と捉える風習で育った人間が、快楽目的でレイプしまくった相手に愛を感じるようになり、そのことでその社会から追い詰められていくという展開はなかなか面白くなってきた。

 果たして村の連中に詰問をどうかわし、己のうちに起きた価値観の変化にティンギはどのような結論を出すのか。あと二、三回で完結とのことで、やはりここは愛の逃避行だろうか、あるいは栗本薫のいつもの心中エンドか。心中はもう飽きたからやめて欲しい。本当にもう飽きているんだ。

 まあ、一回一回のページ数は少ないとはいえここまでつきあったのだから、ちゃんとしたエンドを迎えることを期待したい。


 なお、調べてみたところ次号では他作品のページ数の都合でヴァイトロは休載。そしてさらに次の号では緊急入院によりまた休載。そしてこの入院はそのまま膵臓癌の発覚となり、今作の続きが書かれることはなかった。

 つまり今作はここで中絶である。

 ……いや、まあ病気が病気だし、ほかに片付けなきゃいけない作品たくさんあるし、その作品もたいがい放置したわけだから、この作品が完結しなかったこと自体を責めはしないけど、責めはしないけどさ。ロマトモは20号まで出てるんだから完結してると思うじゃん……ちゃんと読んでたぼくがバカみたいじゃん……スークだのムルガムルだの覚えなくていい造語覚えて脳の容量無駄遣いしちゃったじゃん……わいも歳だから脳にそんなに余ってる容量ないんやで……辛い……辛いよ……だれか読みはじめる前のぼくに「それ未完やで」って云ってくれよ……。あ、でもこの作品に対していうならグインを読む前の中学生のぼくに云って欲しかったです……。はじめから薫に出会わなければよかったというの……?家族に腐っている人がいたから不可抗力だったのよ……?



『副長 第八回』

 鳥羽伏見の戦いは幕軍の敗北に終わった。江戸への海路の中、土方は己の過ちを認めながら、なおも再起の決意をあらたにし、島田魁もまた土方へついていくことを当然のことと思っていた。だが、相次ぐ隊士の逃亡に土方は島田をも疑っていた――


 ついに、ついに栗本薫が鳥羽伏見以降を書いた!

 自分にとって新撰組の面白さは試衛館時代でも京都時代でもなく、この鳥羽伏見の敗戦以降のバラバラになってボロボロになっていく姿にこそある。試衛館時代や京都時代はこれをおいしく食べるための前菜でしかないとすら云ってもいい。『夢幻戦記』が15冊、さらに『まぼろし新撰組』と、この『副長』のここまでの700枚を考えると、実に18冊近くかけてようやく鳥羽伏見に、メインディッシュにたどりついたのだ。不覚にもちょっと嬉しかった。

 が、先のヴァイス・トロピカルの項に書いたが、このロマトモの残りの掲載作を調べてみたところ、『副長』も次回が最後の掲載となり、中絶作品となったことがわかってしまった。

 この回を読む前に未完だということを知ってしまったため、大変にテンションが低く「読んでどうなるというのだ……」という気分だったため、物語に気持ちが乗ることはできなかった。


 鳥羽伏見の戦いの顛末自体は資料をちゃんと読んでまともに書いているし、西洋戦術に打ちのめされ剣の時代の終わりを思い知らされる土方の姿を島田魁の乙女ビジョンで描いているのも妙がある。人が良いだけのぼんくらのおっさんだと思われていた井上源三郎が、戦争が起きるなりまっさきに死んでやっぱりぼんくらぶりを発揮するのも短いシーンだが悲哀があるし、永倉との亀裂が深まっていくのも、後の江戸での決別を予期させて、まともに新撰組している。明らかに栗本薫の新撰組ものではもっとも面白くなっているところだ。

 が、やっぱり次で未完に終わるとなるとね……別に未完でも読むべきって云えるほどの斬新な解釈とかがあるわけでもないからね……普通にほかの新撰組もの読んだほうがいいよね……。でも女性作家の書く新撰組ものってなかなか鳥羽伏見以降書かないからね……なんなんだろうね……。

 

 ところで島田魁が体重を訊かれて四十貫、つまり約150kgだと答えていて、それは重すぎだろと思ってグーグル先生に訊いてみたところどうやら本当にそうだったらしく、資料によっては170kg近かったともあるらしい。180センチでそれは重すぎだろ島田さん……。

 史実がそうだったとはいえ、栗本薫の描いた巨漢キャラでも別格の重量級キャラだ。なにせハイパーゴリラとして描かれいてた安西竜二も190センチ95kgとかで、筋肉質であることを考えると実は見た目はかなり絞られているからね……体型的には逆三角形だよね190センチ95kgのマッチョって。ていうか栗本薫のマッチョキャラってみんな鍛えているわりに体重軽めだよね……まあ創作界隈で異性のリアルな体重が注目されるようになったのわりとここ最近な気がするから仕方ないね……。



 そんなわけで、掲載作自体はわりと盛り上がってきたものの、未完だということを知ってしまったためにぼくは盛り下がってしまってなんともいえない感じですね……。

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