353 タトゥーあり


05.09/クリスタル文庫(成美堂出版)


【評】う


● ヤクザはチンコのおまけです


 若くしてT大の助教授となったエリート島優一郎は、身分を隠して新宿二丁目に行くことをやめられずにいた。しかしその素性を突き止めた若いヤクザ、志賀丈二に脅迫され、肉体関係を強要されてしまう。丈二のてひどいSEXにはじめは打ちのめされていた優一郎であったが……


 まずタイトルが宇崎竜童主演の映画からのいただきでちょっと吹く。竜童さん好っきやなあ。

『タトゥーあり』『69で74』『カサンドラ・ローズ』の三つの短編からなる連作……というか話は直接つながってるし別にそれぞれうまいオチがついているわけでもないので、普通に続きものの話。ちなみに『69で74』は「ろくでなし」と読む。表紙が視界にはいった瞬間にタイトルで吹き、ぺらっとめくって目次を見た瞬間にまた吹ける素敵な仕様となっている。栗本先生のタイトルセンスは老いてなお盛んやでぇ……


 あらすじからわかる通り、ヤクザ×インテリ教授もの。栗本薫のBLと云えば、まず設定からして読者の受けを完全無視している様相をていしているのが基本だが、今作は設定的にはBLとして十分にアリなラインなんじゃないかな? なにせ商業BLと云えば男×男のレディコミ、ハーレクインと化して久しく、そしてレディコミやハーレクインといえば、平凡な主婦やお嬢様が悪い男にたぶらかされるのが基本じゃないですか。


 まるっきり関係ない話をするんですが、自分は子供のころから家にある漫画は勝手になんでも読んでいて、そして両親の方もエロかろうがなんだろうがなんでも包み隠さずそのへんにほっぽらかしていたので、母の読んでるレディコミもよく読んでいたものだった。

 そんな母のレディコミ蔵書を読んでいると「平凡な主婦がチョイワルだけどチョイヘタレな男にたぶらかされる」という話ばかりが集められており「おーい、その男キャラみんなあなたの旦那に似ているじゃないですかー。チョイワルヘタレの男と出会って元彼捨てたあなたそのものじゃないですかー。この漫画群、だいぶ美化こそされているけどあなたたち夫婦そのまんまじゃないですかー。現実逃避の漫画でまで旦那みたいなのがいいんですかー」と叫びたい気分になりながら黙々と読んだものでした。すいません、本当にまったく関係ないんですが思い出したのでつい書いてしまいました。


 まあ、そんなわけで、ヤクザ×若教授、いいじゃないですか。さあおやりなさい!

 ……あれ……なんかBLとちがう……

 なんだろう、これ……カップリングがしっくりこないというか、リアリティがまるでないというか、ちんこちんこ云っているだけというか……わかった、受けの主人公がひたすらに気持ち悪いんだ! ……いや、それもいつものことか……。

 とにかく工事現場に連れこまれてアンアン、職場に来られてアンアンとひたすらアンアンしてるだけのエロ漫画的展開はBLだから許すとしても、この作品がBLとして成立してないのは、攻めのヤクザがただの人型チンコに過ぎないところだと思う。

 BLって、なんだかんだいって攻め様の素敵っぷりが大事で、それは実は優しかったり実は仕事ができたり実は金持ちだったり実は危ないところを助けてくれたりと、作者の性癖によって多かれ少なかれ歪んでいることはあれども、SEX以外の長所の一つや二つは描写されるものだと思うんだが、今作は本当にSEXしかとりえがない。そのSEXもチンコでかくてガンガン突いてくるだけという、SEXがうまいというよりチンコでかいだけというありさま。本当にチンコ以外なにひとつ取り得がないチンコっぷり。こんなんじゃあチョイワル好きのうちのママンが満足できないよ!


 しかもそれでSEX大好き! おチンコ最高! と主人公がはっちゃけるのかというとそういうものでもなく、肉体的には気持ちよくないけどエリートの自分の殻が壊されていく感じで精神的にはいいよ、という中途半端なプレイっぷり。栗本作品は作者自体はおチンコ大好きだけど受けはSEXで感じてはいけないという、わけわからん制約がついているから支離滅裂になるんですよね。

 そんで唐突に最後のほうになって、「ぼくを抑圧してきた父母が悪い!」とか云い出して、おーいお前の両親いままでのお前のモノローグにすらほとんど出てこなかったのに、唐突に悪者あつかいされても読者の僕はおいてけぼりですよー。そんでその後も父母とどういう教育を受けどういう抑圧があったのかの描写はまるでなし。ただオトンも立派な教授だったから自分もその道に進んで期待されているという説明しかない。

 これで父母が悪いとか云いながら尻ずぽずぽされてても、お前の性癖をパパママのせいにするなとしかいいようがない。別にホモは病気じゃないんだから、失礼な。そもそも栗本先生は「私は同性愛者の味方」みたいなことをよく息巻いていたけど、どうも「あなたたちは同性愛という病気だけどそんな病人を私は避けたりしない」という感じで、味方している自分が一番差別しているんじゃないかという節があって、どうにもよくない。

 彼女の男×男好きには、男×女だと女が邪魔だというのと、単純にチンコ大好きというのと、世間で迫害されているものの味方をしたいという天邪鬼気質とが絡まりあっているわけで、その天邪鬼気質は単に世間と逆のことを云いたいという気質なのだから、実際は世間と同じ(と彼女が思っている)価値観を受け入れた上で反発しているわけで、実質は彼女ほど同性愛を世間のつまはじきものと思っている人はいないと思うのです。石原慎太郎レベルの頑迷さと古臭い価値観が基準になっていると思うわけです。だから失礼だなー、と思うわけです。


 なんかわけわかんない話になってきたけど、要するに攻めがチンコのおまけではBLとしてどうかな、と思うわけです。SM風にしろ、いやむしろSM風だからこそ、攻めにはチンコ以外の人間性が求められるのではないでしょうか?

 あと何度でもいいますけど実の父に対して「セックスもしたことないような顔しやがって」とか思いません。父親がセックスしてるのは子供は知ってますから。父に復讐してやるという内容が父の部屋でセックスって、みみっちいにもほどがありすぎて泣けます。なんの復讐なんだよそれ。

 そして淫語を英語にすることでインテリを表現できると思ってるのなら人生をやり直してきてください。「penisをerectionしてanusにinsert」のどこに知性を感じればいいのか、ぼくにはさっぱりわかりませんのです。あと主人公の年齢もちゃんと設定してください。三十二なのか四なのか六なのか、年齢が出てくるたびにぐちゃぐちゃでまいってしまいます。


 そんな感じで、萌えないしいい加減だしでわりと散々でした。正直、栗本先生以外が書けばそれなりのBLにはなったんじゃないかという気がする分、余計に気持ち悪くて困ってしまう、そんな作品でした。

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