339 FULL HOUSE Excellent お中元04(同人誌)

04.08/栗本薫と仲間たち

<電子書籍> 無


【評】う


● ホモ小説のお中元、きびしいですね


 趣味で書いていたホモ小説の詰め合わせ同人誌。

『下郎』『カサンドラローズ ―タトゥーあり外伝―』『雪うさぎ』『通信教育講座 公開模試篇』収録


『下郎』

 土佐の人斬り岡田以蔵が、殺人の代価に武市半平太に求めたのは、彼の肉体であった――

 岡田×武市という幕末歴史ホモである。岡田以蔵は基本的にアリストートスだと思えば良く、武市は成り上がり者でプライドの塊なので、やはりイシュトだと思っておけば良い。

 岡田以蔵が武市の命令を聞いていたのは懸想していたからだ、というのは、まあ歴史ホモの解釈として別にあってもいいんじゃないかと思う。いつも言葉が途中から消えていってもごもごと喋るという岡田以蔵の描写にはなかなか力が入っており、やはりキモキャラと云えば薫だね!という気持ちになる。

 が、一編のお話としては、短編のくせに必要以上に幕末や土佐藩の説明が多く、それでいてやっていることはただの「ホモにレイプされちゃってまんざらでもなかったけど認めないんですからね!」といういつものアレであり、かなりちぐはぐで読み辛い。せっかくの幕末ものなんだからもっとちゃんとストーリー作れば面白くなりそうなのにな。出来はいまいちではあるが、キモキャラ好きとして嫌いな話ではない。アリ×イシュ本が読みたかった人には代替物になるのではなかろうか。


『カサンドラローズ ―タトゥーあり外伝―』

 T大の教授がむかし年上の上司に「ソクラテスの弟子アルキビアデスはソクラテスに抱かれたかったんじゃない!抱きたかったんだ!だからやらせてください」という超論理で落としてやりまくっていたけど上司の嫁に子供ができてしまってから相手されなくなって自分も偽装結婚して40年間ほど悶々としてたけど最近その上司の息子が部下になって視姦してたら「先生、父とやってましたね?あ、本当に寝てたんだビックリ。攻めですか受けですか?え、そこのソファーでやってたんですか?じゃあぼくもそこでハメてください」と超論理で迫られたので棚ぼた親子丼をキメてやりましたやっぱり哲学って最高だよね。という話。

 後に『タトゥーあり』にまとめて収録された話だが、そちらのレビューでは個別に書いていなかったのでついでに書いてしまうか。尺の足りない男性向けエロ漫画のような理屈で親子丼が始まるのがたまらない。やはり棚ぼたックスは男の夢だよな!(そうか?)

 哲学科のインテリを表現するために淫語をanusとかpenisとかerectとか横文字で表記している頭の悪さが何度読んでもたまらない。特に「先生には明らかに、anal-erotismが、それもかなり強いanal-erotismがあった」という一文には大事なことだからって二回云わなくてもいいんだよ、という気分になる。声に出して読みたい英語、anal-erotism。

 面白かったかどうかを云う必要があるのだろうか?


『雪うさぎ』

 ある村でよそ者のショタっ子がいじめられながらも兄貴分の庇護下で成長し、大人になったので兄貴分に妹を嫁にくれと云ったらお前は俺のものだと云われてハードレイプされました、という話。

 良い兄貴分だと思っていたらキモいストーカーでしたって時代物、あなた昔散々書いたのにまだ書き足りていなかったんだ……と呆れてしまう。内容は本当に九割方同じなので、一作読めばもう読む必要はない。

 あとがきによるとこれは元は『雪笛』というタイトルで、お気に入りの若手俳優のために書いた寸劇的なものであったらしい。そしてその俳優の内一人は気に食わないことがあって出禁にし、もう一人もそこまでではないけど不義理があったので梓の芝居には出せなくなったので、この本に収録するにあたってキャラクターの名前は全部入れ替えてしまったとのこと。ハッキリ云ってかなりみっともなく、云うだけ損な内情をなぜあとがきに書いてしまうのか。この感じがなんとも梓である。

 というかこんな気持ち悪いホモストーカーの話を自分たちのために書いたと云われたら正直辛い。ホモ妄想はいいけどこのキモいストーカーはきつい。


『通信教育講座 公開模試篇』

『通信教育講座 Ⅱ』のあと、アトムくんはアナニーして、チャットHして、お尻にペンを入れて、そのまま他のチャットルームにネカマして会話してて「まだ抜いたらだめ?」と公開メッセージで出してしまい、あわてて逃げました、というはた迷惑なネット上露出プレイの話。

 慣れてきたというかさすがに飽きてきたので、いやあ、アトムくんキモいなあ、と冷静に読んでしまった。アトムくんと松田さんのチャットがネットに上がる「すぐに別れるカップルのLINE」の典型である。最後に露出プレイしたせいでキモいやつから変なメッセージが届いたというところで引いているが、キモい奴のメッセージと松田さんのメッセージにまったく区別がつかないのがポイントである。いやあ、キモい。



 いまさら云うことではないが、やはりエロ同人誌は冷静に読むものではないな、と思いました。

『下郎』の岡田×武市はちゃんと歴史物としてストーリーを作って書けば面白くなったかもしれないので多少もったいない気がしないでもないけど、薫、歴史物うまくないからなあ……『夢幻戦記』以降は資料を調べたのが悪い方へ行ってるからなあ。本気で書いてても面白くはならないかあ。

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