336 鬼

04.07/ハルキ・ホラー文庫


【評】うな


● ブス無双


 克子は愛してもいない男の子供を育てるシングルマザー。友人もなく話す相手もなく、近所からは胡散臭い目で見られ、職場では軽んじられ、ただ近所の青年に淡い憧れを抱くだけの、なんの救いもない日々。ままならぬ気持ちは子供への虐待を生み、そのことがまた彼女の狂気を深めていく……


 あ~~~……もったいない……。

 いや、正直、思ったよりずっと面白かった。超常現象を出すとすぐに底の浅さが知れてつまらないB級作品になる栗本先生だからして、現実的な心理ホラーに焦点をしぼった今作は比較的成功していると思う。

 ストーリー自体も、構成が栗本ホラーのわりにはちゃんとして、中盤での盛り上げどころと後半のひきつけるポイントなど展開もしっかりとしており、起承転結がきちんとある。なので、晩年の作品にしてはだらだらと無駄に続いている感じはうすかった。いや、うすいだけで無駄なシーンや文章はしっかりあったんだけど、起承転結があるだけで誉めたくなるのが晩年の薫クオリティ。

主人公が本当にいやな、気持ちの悪い、関わりたくないブスってあたり、なかなかいい。本当に心の底から関わりたくない正真正銘の地雷女。コミュ障のブスの心理をここまで克明に描ける人間が、栗本薫以外にはたして何人いるだろうか? 


 けど……これ、本来はもっと悲しみを表現したかったんじゃないだろうか? 身も心も醜い者の悲しみを。そうとしか生きられない人間の愚かさと悲しさを。この書き方だと、本当に嫌な人にしか見えないのでちっとも同情できないんですけど……

 あと、デブオタ男を出して「知性などなさそう」とか書いているけど、そういえば昔からそうだったけど、栗本先生はデブ男=知的障害みたいなイメージ持ってるよね。

 でも、デブオタって、そりゃバカも多いけど、脂肪と一緒に無駄な知識もためこんでいるタイプも多いし、知的労働者で運動しないからデブっていう人も多いから、デブオタ=インテリ、みたいな人もけっこういる印象もあるんですけど、栗本先生にはなんでまったくそういう発想がにゃいのかにゃ? デブがタイプじゃないからなのかにゃ?


 ま、話を作品内容に戻すと、中盤、子供に関するあたりのくだり、保育園で説教されて園長を憎むくだりなんかは、じつに思考そのものが最低で、でもそんな最低な気持ちがちょっと共感できちゃう感じもして、自己嫌悪もふくめたいや~な気持ちになって、わりと良かったと思います。

 オチは展開がけっこう急なわりには、なんかテンポがわるくて、キレがなかったですね。栗本先生のホラーのほとんど全部がオチがいまいちなんですけど、これは仕方ないんですかね?

 で、なにがもったいなかったのかというと、やはり晩年の作品であるので日本語に不自由な感じがあって、読んでいてずっこけたりつっこみたくなったりするようなひどい文章が適宜まぎれこんできたりするところですかね。往時は作品の雰囲気を作るのがうまかった栗本先生だけに、定期的にぶっ壊しにくる晩年の日本語選びには悲しくなりますね、やはり。そこに目をつぶれば読める作品ではあります。

 総じて、栗本ホラーの中では上位の出来かな。栗本薫ならではの作品という感じがするしね。

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