279 ローデス・サーガ 1 南から来た男 上・下(同人誌)

1999.12/天狼プロダクション

<電子書籍> 無


● ナリスの2Pカラーで送るメアリー・スー&ルサンチマンホモ小説


 ケイロニア北部ローデスを治める選帝侯ロベルトは、その美貌と生来の盲目で知られていた。ある日、ロベルトは脱走した奴隷に遭遇し、人質としてさらわれてしまう。はるか南の故郷を目指すその奴隷ブライに犯されながら、奇妙な絆を築いていくロベルト。だがそれは、彼を襲う惨劇のはじめまりでしかなかった――。

 グイン・サーガ本編で描かれなかった世界を描く同人小説第一弾。



 栗本薫の歴史の中でもかなりやっちゃった感のある天狼叢書シリーズの栄えある第一弾である。天狼叢書というのは要するに栗本薫のオリジナル同人のことなのだが、それまでの同人誌との違いは、遊び半分のエロパロではなくて本腰を入れたシリアスホモの薄い本(薄いとは云っていない)となっていることだ。

 力の入れっぷりは、装丁や判型を一目見るだけで察することができるだろう。なにせB4ソフトカバーの260p超でしかも上下巻である。その外観は当時講談社から発行していた『真・天狼星』等の伊集院シリーズに酷似しており、率直に云って自分の小説の装丁をパクったんだな、と云わざるを得ない。


 同人はいいとして、なぜよりによってグイン・サーガの、しかも本編でほとんど出番のない脇役のホモ小説をこんなにたくさん書いたのか、という経緯に関しては本書のあとがきに書いてあるが、要するに当時交流のあったファンに「あの脇役好きなんです~」と云われて妄想を聞いているうちに盛り上がって書いてしまったという、わりとありがちなアレである。

 あとがきで「こんなふうにして他人に触発されて出来ていった物語というのはけっこうはじめてです」とか書いているが、あなたおわラブのときも一話だけの読み切りのつもりだったのに少年院萌えの吉田秋生が続きを妄想して語るので書いちゃったはずですよね……。


 さておき、そんな感じではじめて詳しく描かれることとなった盲目の選帝侯、黒衣のロベルトさんがどんな人物かというと……ナリスの2Pカラーです。

 細身の美青年で病弱で黒髪長髪で……と盲目の部分以外は本当にナリスそのもので、唯一ナリスは性格が悪くロベルトは天使というのが違うといえば違うのだが、足を切って以降、なぜかナリスは性悪をやめて天使のお姫様キャラになってしまったせいで、そこも完全にかぶっている。

 これならわざわざ実質新キャラをたててやる必要はあるのか。ナリスでもいいのではなかろうか。いやしかしグインの世界とはいえ、既存のキャラでホモ同人を出すのは気が引けたので、実質新キャラでやるという配慮なのかな……。これなら本編の世界とつながっていると思いたい人はつながっている、別物と思いたい人は別物として楽しめるからね……。意外と大人の配慮だったのかな……。とか思っていたら天狼叢書第二弾はそのナリスのホモ小説だし、このローデス・サーガの二巻目では本編の主要キャラがホモにされてたり、挙句にそういうホモ本の宣伝をグイン本編のあとがきでし始めたりと、大人の配慮的なものではなく、単に受けに自分の萌えツボを搭載するとどんどんいつもと同じキャラになっていくというアレだったようだ。


 そんな今作のストーリー内容ですが、基本的にロベルトさんがひたすレイプされたり拷問されたりしまくるけど心が清らかなので綺麗なままなの、というお話の、まあヤッてるだけのエロ小説です。

「ただのホモエロ小説じゃん」というのは栗本薫の基本ではあるものの、ここまでただレイプされてるだけみたいな話はさすがに商業では珍しく、上巻と下巻がわりと別のお話というか、つながっているんだけどノリが違う感じになったりするのも、いかにも好き勝手にやってる同人という感じがする作品になっている。

 上巻ではあらすじに書いたとおり、通りすがりの脱走奴隷にさらわれたロベルトが、ガンガンお菊を掘られまくるんだけど、その心根の清らかさに奴隷が感化されて従僕になっていく、というのがメイン。

 下巻はロベルトに片思いをしている幼馴染のベルデラント候ユリアス、に片思いをしているユリアスの異母弟レグルスが、ロベルトを拉致監禁して拷問レイプするのがメインのお話になっている。

 同人ということもあっていつもよりフリーダムな感じであり、本当に拷問レイプばかりの、頭悪い感じの作品だ。上下巻の二冊組にしてまでやる話かこれ? と素直に云いたくなる。だがそのフリーダムさゆえか、栗本薫らしい、彼女の生の迸りが感じられる作品でもあるのだ。


 初期の中島梓名義の私小説『弥勒』を読むと顕著だが、彼女の根底には障害者であった弟への愛憎と嫉妬がある。白痴であった栗本薫の弟は、一人では食事も排泄もできず、母親が逐次面倒を見て育てていた。それゆえに母親の愛が弟に独占されていると感じ、ただそこにいるだけで家を支配している絶対者として弟を憎み嫉妬していた心情が『弥勒』には赤裸々に描かれている。

『魔界水滸伝』で巨大な白痴の赤子として描かれる邪神アザトースなどをはじめ、栗本作品において赤子が恐怖の対象としてたびたび登場するのは、この弟への感情があったからだろう。

 弟のようにただそこにいるだけで愛される存在でありたいという願いと、決して自分はそうはなり得ないという絶望。彼女の心底に根付いた想いは様々な作品に噴出し、時に作品を魅力的にもすれば、大きくストーリー展開を歪ませ理解しがたいものにもしてしまっている。

 今作はその弟への愛憎がかなり色濃く出た作品となっている。


 生来の盲目であるがゆえら世俗の汚さに染まらず清らかなロベルトの姿は、弟を通して願った彼女の理想の姿だ。ナリスが片足を切断し不具となってより、急速に清らかなお姫様化したのも同じ理由だろう。不具であるがゆえに清らかなまますべてを支配する、というのが彼女の思う真の支配者の姿であり理想像であるのだ。

 後年に自身のことを多重人格者であるだとかあどけない童女だとか云い出したのも、根は同じであろう。欠けているがゆえに愛され、愛ゆえに君臨する。精神的なものであったり肉体的なものであったりと多少の違いはあるが、『真夜中の天使』の今西良から一貫する彼女の性癖であり願望である。

 しかし率直に云ってしまえば、それが歪んだ願望であるがゆえか、今西良から晩年ナリスまで一貫して、この君臨する天使ちゃん受けには、魅力がない。いや、中には魅力を感じる人もいるのだろうし、「良は私だ」という読者からの手紙が届いたと薫も云っていた。だが全体的にはこの良的キャラは批判されることが多く、ナリスも初期を好きだった人ほど晩年のお姫様ナリスを嫌悪しがちだ。ちなみに自分も完全にそれである。


 それは結局、白痴の弟への歪んだ願望がそのままに出ているため、そのキャラを取り巻くまわりの人物の心情や展開に無理があり、読者が置いてけぼりになるからであろう。作者からしてみれば「だって弟はこうやって我が家に君臨したんだしみんなもそうなるはず」というのが無意識にあるのかもしれないが、脳の病気によるまともにしゃべることもできない白痴と、やたらべらべらと喋り倒す栗本キャラはかみ合わせが悪すぎる。

 しかも彼女の受けキャラには「性欲はあるからやりたいけど清らかでいたい」という被害者ヅラした中二病も混ざっているため、また面倒くさくなっている。この辺りは男として一番理解し難くもあればイラッとくる心理でもあるので、栗本作品の受けキャラが好きになれない理由でもある。


 そんなわけで、このローデス侯ロベルトもヤリマンぶりっ子にしか見えなくて、気持ち悪いな、というのが正直な感想だ。清らかだからやられまくってるだけで男が忠誠誓っちゃうの、というのも性格の悪いメス臭が過ぎてついていけない。しかもその奴隷男と相思相愛になる少女漫画展開ならともかく、その奴隷男は部下になってやらせなくなるし、じゃあ幼馴染の誠実な真面目くんのユリアス(『パロスの剣』でレズの主人公に片思いしてた真面目くんもユリアスって名前だったな……)とくっつくのかと云うと「ただの友情だと思ってるから」で華麗にスルー。じゃあ清らかに独身を貫くのかというと、二巻目で上司であるアキレウス大帝と相思相愛になるという、使い勝手の良い男二人を確保したまま格上の男を捕まえるとてつもないメスっぷりを発揮。でも清らかなの。性格の悪いメス臭出しすぎでしょ薫。

 この「安牌確保しながら別の男とつきあう」というのは初期のJUNEにはわりとあって(榊原姿保美作品とか)、正直安牌くんはブチ切れるべきだといつも思っていた。ちゃんとふれよ!本命にふられたら戻って来る気かこのファッキン糞ビッチが!

 ……すいません、ちょっと非モテ持病のミソジニーが出てしまいました。


 そんなわけで晩年ナリスの2Pカラーであるロベルトも清純を履き違えたクソメスなので、この作品はしょうもないのかというと、見どころは別にあるのです。

 それはロベルトを拷問レイプするユリアスの異母弟のレグルスくん。

 このレグルスは今西良に対する森田透に当たる、というか透のルサンチマンと性欲を強めて自虐的な部分を攻撃性に全振りしたようなむ、ふっきれた嫉妬逆恨みキャラである。

 このレグルスがロベルトに対して、手を変え品を変え言い回しを変えながら何度も繰り返す言動「盲目というだけでみんなにちやほやされやがって!」が、栗本薫の弟に対する嫉妬や憎しみをストレートに表現していて、ものすごい情念を感じる仕上がりになっている。

 基本的に後半はこのレグルス無双というか、レグルスが世界中に対して「僕を愛せ僕を愛せ」とわめきながら精液を撒き散らしまくるストーリーである。

 その心情は幼稚園児のようにわがままでめちゃくちゃであり、しかしそれゆえに作者の真実の叫びを感じられる。

「あいつは自分より愛されるなんてずるいずるいずるい」「あいつになりたい」「あいつをこの世から消したい」「でも自分もあいつに愛されたい独占したい」

 様々な形で乱反射する偶像に対する屈折した感情と性欲をここまで描いたキャラもそうはいまい。正直、ルサンチマン大好きな自分にもいまいち理解できない感情が多く、いろいろやりすぎなのと性欲かぜ絡み過ぎなのとでなんか笑ってしまうが、栗本作品の中でもかなり突き抜けたキャラであることは間違いない。


 そんなわけでストーリーはわりとめちゃくちゃでムダに長くて、ロベルトは気持ち悪くて、グイン本編のイメージを壊すという、どうかと思う同人小説ではあるものの、栗本薫の作家としての数少ないオリジナリティである愛される不具への歪みまくった感情や強烈なルサンチマンと性欲など、薫汁がビッチャビチャに溢れている作品なので、薫に共感できる自己愛モンスターや、そうしたメンヘラ的心情に興味のある人にはオススメしていきたい一品である。


 あ、書くの忘れていた。ちなみにこのタイトルは『チョコレート工場の秘密』などで知られるロアルド・ダールの有名な短編小説からのいただきですね。あちらは危険な賭けをもちかけてくるギャンブル狂いの老人の話なので、まったく内容は関係ないです。(つうかこのレビューを書くために元ネタはじめて読んでみて「関係ないやん」とツッコんだ)

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