280 青の時代 ―伊集院大介の薔薇―
2000.02/講談社
2003.01/講談社文庫
【評】うな
● 「また舞台ネタか」という確かなげんなり感
あるベテラン女優のもとに、薔薇の花束が届けられる。宛名は「伊集院大介」。そして彼女は思い出す。大学時代の、伊集院大介との出会い、その時に大学の劇団で起きた、ある事件の顛末を――
これは、けっこう面白かった。
まあ、あいかわらずバタバタ展開でいい加減な部分もあるし、犯人も読めてしまう範囲内だが、そもそも犯人を推理する段階にいたっている大介シリーズが近年は少ないのだ。(そう思うと実に斬新なミステリーシリーズである)
小劇団を題材に「ああ、いるいる、こういう使えない役者志望」みたいなのも、わりかし書けていた。必死なわりに才能がない人間を描くのがうまいのが栗本薫なんだよな!
逆に不安になるのは当然のように出てくる天才キャラで、今回は天才演出家の座長なのだが、今作では作中作の内容に深く言及していないので、あまり馬脚をあらわさずに済んでいる。かつて道場において「作中作をもっと具体的に見せて欲しかった」と指導していたこともあるへんへに「そうだそうだ」と同意していたぼくであるが、それっぽいものが書けないのならはしょるのも大事なのだということを、数々の恥ずかしい作中公演を経てぼくもようやく理解した。しかしまあ、ごまかそうと思えばごまかせるしそこをごまかしてもだれも文句云わないようなところをうっかりやってしまうのが、栗本薫の素直さや愛嬌ではあるのだが。
ともあれ、今作が描いたのは学生劇団らしい若さゆえの葛藤、若さゆえの事件だ。それを乗り越えた現在の自分を愛するという前向きな終わり方もふくめて、普通に楽しめます。サブタイトルも珍しく決まっている。シリーズだとわからせるために「伊集院大介の」って無理やりつけていた感があるのがほとんどなのに。
それにしても伊集院大介、散々役者としての才能を褒めそやかしていた相手なのに、何十年も放置とか冷たい。ちゃんと見に来いよと云いたい。吉沢胡蝶や竜崎晶にはがっついているのに。女だから? 女相手だから冷たいの?
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