277 夢幻戦記8 総司西征譜(下)
1999.12/ハルキ・ノベルス
<電子書籍> 無
【評】うな
● そうだ、京都へ行こう!
幕府お抱えとして上洛することになった江戸の浪士たち。だがその道中は、総司をつけ狙う芹沢鴨と、幕府の名で集めながら勤皇の徒として使おうという清河八郎の謀略とが渦巻くものだつた――
京都旅行編である。
一巻丸々かけて中仙道を歩いて京都にたどり着くまでの徒歩の旅行ぶりを描いているだけなのだ。
無論、そのあいだに総司のお菊を狙う芹沢鴨が夜這いをかけてきたり、芹沢だけには注意しろよ注意しろよと云われていた近藤が前ふりだと勘違いして芹沢の宿を手配しないで大騒ぎになる事件があったりもしたが、事件らしい事件といえばそれだけで、あとは深谷を通ったら深谷葱を食べたがり下仁田を通ったら下仁田葱を食べたがる土方や、その土方をしつこく葱ネタでからかう永倉、旅に出るなり仲間意識ができて土方と仲良くなる山南や、琵琶湖を見て「海じゃん」と感動する一行など、ようするに男同士がわちゃわちゃしているだけの「新撰組どうでしょう」である。いやまあ、近藤の失敗が沖田を狙う芹沢の謀略であったり、一応それなりに今作なりの独自解釈もあるんですけどね。
率直云って「二冊かけて京都に行くだけかよ」という展開の遅さに驚愕するばかりであるが、しかしグイン・サーガにおけるイシュトヴァーンのマルガ行しかり、記憶喪失の豹頭一同の水の都観光しかり「このタイミングで旅行かよ!」「観光長えよ!」と遅々とした展開に苛立ちつつも、その観光記自体はけっこう面白いのが栗本薫である。
旅行の中で、ウマの合わない土方と山南が仲良くなったり、藤堂平助が頼りなく直情的な弟分キャラを確立してきたり、永倉新八が安定の筋肉キャラだったり、原田左之助が究極的に空気だったり、置物くらいの感覚だった近藤がいなくなると意外と淋しくなって大将だということがわかったりと、くだらない会話の中でキャラ立ちがハッキリとしてきて、新撰組として活躍することになるこの先の展開を考えると悪くないくだりである。
それでもまあ、二冊かけて京都にたどり着くだけというのは、ちょっとどうかと思うけど、2~5巻までの「これなんの話だったっけ……」ぶりに比べるとちゃんと新撰組ものらしくなり、普通に読めるようになっている。ここまで三巻くらいでたどり着いていればなあ……。
本編とは関係ないが、この巻の表紙、実物を見ると妙に画像が粗い。これ絶対、間違えてデジタルデータでやりとりしてて、入稿時に間違えて解像度の低いデータで入稿しちゃってるでしょ……
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