264 夢幻戦記 5 総司夢幻行 上

1998.12/ハルキ・ノベルス

<電子書籍> 無

【評】 う


● このわざとらしいコミックNORA臭! 

 

 大老・井伊直弼暗殺に揺れる試衛館の若者たち。それとは特に関係がなく沖田総司がお使いに出かけ、気がつくと変な空間に迷い込んでいた――


 中盤で総司を「東海公子」と呼びつけ狙う、PCエンジンのB級RPGに出てきそうな悪役サキ・ローランドとウラニア・ローランドの兄妹の手により怪しげな世界への突入。後半で高尾山に旅行に行くと、今度は次元の魔女プロセルピナとかいうのの結界内に突入して鳥居をくぐったり宇宙を船で飛んだりする。

 なんとこのシリーズでは珍しく一巻のうちに二度も見せ場的なものが存在している。それ以外の場面はだいたい同じことの繰り返しな物思いばかりではあるが、それでもどこが楽しみどころなのかわかるだけこのシリーズでは快挙である。 

 それだけで一瞬面白いような気分になりかけるが、そこで明かされる設定や異世界の描写が大変ダサく古臭く陳腐でそしてスカッとするようなシーンはないため、今度は「普通につまらないなこれ……」という気分になる。なんか『少年キャプテン』とか『コミックNORA』に短期連載されてた打ち切り作品のような古臭いつまらなさがあるんだよね……。

 ずっと七十年代にとどまっていたような栗本薫が、『幽☆遊☆白書』にハマったりして時計を進めた結果、八十年後半にまで進化したとも云えるのだが、十年前の文化って一番ダサく恥ずかしく見えるから、そこには進まないほうが良かったのではあるまいか……?


 ともあれ、この巻でようやくこのシリーズの基本設定らしきものが見えてくる。それは以下のようなものだ。

「三千世界を統べる天帝ベルゼビュートの跡継ぎである夢幻公子ルシファ・ベルフェゴールは、あらゆる世界・時代に転生してその時代での人間としての役割を果たすという使命を繰り返している。沖田総司もそうした転生の一つ。かつて青竜星アトランにおいては東海公子という者に転生し、サキ・ローランドの犯した罪を精算するために星を滅ぼし、そのことでサキに恨まれ転生の先々を追われている」

 やっぱり少年キャプテン臭がしますね。う~ん、この古臭いB級SFアニメ感! 栗本先生、こういうのは八十年代前半にやっていればよかったのよ……?


 あとこの巻で斎藤一が夢幻戦士、騎士長エウリノームであることが発覚し、ほぼ正式にこの作品における主人公のパートナー役であることが決定したわけだが、その恥ずかしい肩書きや名前はともかくとして、出番が増えれば増えるほどただのおしゃべりな親切お兄さんとなり、とらえどころのない剣呑な雰囲気が霧散してしまったのはいかがなものか。

 だいたい栗本作品のキャラクターは出番が増えるとやたらとおしゃべりな解説キャラとなって魅力がなくなっていくのが基本だが、この夢幻戦記は総司があんまりしゃべらないキャラということもあって、ひときわ「聞いてもない噂話を一方的に話してくれるスピーカーおばさん」感が強い。

会話シーンが会話じゃなくて一方的なおしゃべりにしか見えないの、初期からかなりその傾向はあったとはいえ、九十年代半ばから本当に悪化したよなあ。聞き手が「……」「それは……」「はい……」とかの相槌しか打たないから本当に会話と呼べないし、相手の返答で流れが変わらない会話は純粋に面白くないんだよね……。

 地の文が減って長台詞で説明することが増えたのは舞台脚本を書いててそういう癖がついたのでは、という説もあるが、でも舞台ってそれこそ役者のそのときの気分によってどう転がるかわからないような会話の応酬が魅力なんだからさ、こんな一方的な長台詞ばかりの脚本だったらダメじゃん……まあダメだったんですけど……。


 そんなわけで、ストーリー自体は進んだものの(冷静に考えると設定が多少明かされただけでストーリーは進展していないんだが)、そのストーリーや設定自体が面白くないシリーズのようだということが発覚してしまう、ある意味つらい巻である。これで勢いがあればB級作品としてそれはそれで楽しめるんだけど、物語の進展ペースも刊行ペースも遅いからね……普通に「栗本薫のものはなんでも読む」という人以外は脱落しますよね……。


 ところで栗本薫はわりとネタのリサイクルをする人なんですけど、このシリーズの基本設定のいくつかって、『魔界水滸伝』の最終部予定だった「時空を超えて」編の流用、場合によってはつながっている話なんじゃないかと思うんですよね。

 幾度も転生してそのたびに破滅をもたらし追放される、という夢幻公子ルシファ・ベルフェゴール(しかし何度書いてもむず痒くなる名前だなこれ)の設定は、グインや安西雄介を想起させる。

 ことにまかすこは第四部はどうやら過去のアトランティスの話であるらしいことが、第二部作中のいくつかのワードや「時空を超えて」という予定タイトルから窺える。東海公子が津波で滅ぼしたという青竜星アトランの名前や由来がアトランティス大陸であることはいうまでもないし、まかすこではクトゥルーの治める魔都ルルイエが地球の海底にあったことが伏線めいたものとしてあつかわれていた。さらに『グイン・サーガ外伝14』で「ク・スルフというものじゃよ」と自己紹介してくれた陽気なタコのいる異次元は、水没した異星の都市であった。ついでにいうとこの時期に書いた『新・天狼星』で紙上上演された作中舞台『炎のポセイドニア』もまた、アトランティスみたいな街が水没する話である。

 こうしたことから、アトランティスを中心になにか色々とつながる予定だったのではない、という気がする。いやまあ、栗本薫のことだから「つながるといいな」程度の考えで適当にばらまいていたんだろうけど。主人公がいつも追放されたすごい人で自分探ししているのも「わたし絶対すごいスペシャルな存在なはず!具体的にどういうものなのかはわからないけど……」という厨二病的な根拠のない選民意識を反映させたら自然にそうなっているだけなんだろうし……。


 しかし五巻も書いて一向に上洛する気配がなく、ほとんど事件が起こらない新撰組ものってほんとすごいよな……。B級SFファンタジーとしても全然バトルも探検もしてないし……チラ見せされてる伏線も陳腐で先が気にならないし……どうやってこの先十巻も愉しめばいいんだ……

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