254 グイン・サーガ外伝14 夢魔の四つの扉

1998.06/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 有


【評】う


● 世界一気さくなク・スルフさんのおしゃべり巻


 ついに鬼面の塔の中へ足を踏み入れるグイン。そこでは見たこともない化け物どもが待ち受けていた――


 五重の塔ならぬ四層の塔を登ってボスキャラを倒して行くという定番の『死亡遊戯』展開である。

 ボスモンスターとの連戦なので、どれだけ面白いモンスターを出すことができるかという想像力と、戦いをどう迫力をもって描けるかの筆力にすべてがかかっていると云ってもいい。

 が、この時期になると文章からとみに迫力が欠けていってしまっているため、全然怖くもないしワクワクもしない。なにせ出会うモンスターすべてが長々と説明してくれるから「気さくで親切な人だなあ」という印象が先にくるし。栗本先生には「敵キャラと解説役は別に用意した方がいいですよ」とこっそり教えてあげたい。あとまあ、グインさん、ただでさえ強い上にチートアイテム持ってる上にピンチになると仮面ライダーブラック並に「そのとき、奇跡が起こった」的な解決するからね……単独で戦ってるとドキドキはないよね……。


 一層目。いきなり大蜘蛛が出てきて「また蜘蛛かよ蜘蛛嫌いだからって出しすぎだろ飽きたよ」と思っていたら、蜘蛛はスルーしてボスはサイクロプス(首だけ)だった。催眠術をかけられそうになってグインさんピンチ……と思ったら「そのとき、奇跡が起こった」的なタイミングで別れていたザザとウーラがやってきてサイクロプスの目玉を突っつきなんとかなりました。

 サイクロプスさん「俺は目玉が弱点だとなぜわかったー」と云いながら死にましたが、首だけサイクロプスで目玉以外どこを攻撃しろというのか。多分はじめてゲームやる人間でもとりあえずそこを狙うと思います。そして死ぬまで解説ご苦労様です。


 二層目、怪しげな花園でエロい女の群れが出てきて特に内容のない会話を多重奏でし、あからさまなボスモンスターの女たちのボスが出てきてずーっと説明してくれたあとに攻撃してきたので、いつものようにかじやスナフキンの魔剣でワンパンしました。本当にこの剣ワンパンしすぎ。


 三層目。謎の水中都市にワープ。マリンスノーが降り注ぎ目も口もない巨人モーヘッドがうろつきまわるこの都市の描写はけっこう悪くないのだが、そこに出てきた気さくなおっさんが「わしはク・スルフじゃよ」とか云い出しました。そう、ここは諸事情によって絶賛中絶中になっていた『魔界水滸伝』のサービスエリアだったのです。

 自分に拮抗するパワーの持ち主は二人いたが、一人はとうにいなくなり、一人はいまどうしていることか、という口ぶりから、いなくなったのは八岐こと北斗多一郎で、どうしているかわからないのは禍津神・安西雄介のことであろうと思われる。この情報から『魔界水滸伝』20巻で自爆特攻したはずのクトゥルーが生き残り、かなりの時が経ったのがグイン・サーガの時代ということになる。『新・魔界水滸伝』では旧作から少なくとも三千年後、という推測が作中でなされている。旧まかすこ→新まかすこ→グインなのか旧まかすこ→グイン→新まかすこなのかはわからない。

 これらをはじめとして、このク・スルフの一方的な長い説明にはまかすことグインのつながりを考えさせる言葉がいくつも出てくる。が、いずれもハッキリはしないし、なにより栗本薫のことだからそこまで深く考えずに適当に云っているような気がしてしまう。仮に確定した設定でも放り投げるのが得意な薫なので、考察するだけ無駄でもある。まあ、そもそもいまとなっては作者死んでるしね……。

 しかし、そんなまかすこ考察をふっとばすほど、このタコ様、気さくである。基本的に語尾が「~だよ」で「わしはとっても偉いんだよ!」「わしにも体面とかあるんだよ!」とか云ってくるので、ボケたじいさんを相手しているような気持ちになってくる。ここまでくると筆に迫力がないとかそういうレベルではない。薫はタコ様をなんだと思っているのだろう。能力的にはグラチウスは愚かヤンダル・ゾックよりも強力で、グインワールドを根底から覆すような存在なのに、完全にほら吹きのボケ老人にしか見えないのは良いことなのか悪いことなのか。

 とにかくこのク・スルフおじいちゃんの「ええ……これいいの……?本当にこれでいいの……?」というインパクトでこの巻の内容全部がすっ飛んでしまうのであった。


 四層目はなんか宇宙空間にいて、アザトースみたいな巨大赤子が出てきて、その巨大赤子が<ユゴスの徴>と呼ばれるなど、完全にまたまかすこサービスである。これでまかすこが再開してグインと繋がっていればカッコよかったんだけどね……実際は放置ですからね……。しかし、新まかすこ中絶から二年後にこういうことをグインでやっていたことを思うと、やはりあの中絶は栗本薫にとっても不本意なことだったのであろうか? ハルキ・ホラー文庫でまかすこが再刊されたときに、そのまま新まかすこも移籍しちゃえばよかったのに……。でも春樹社長は新は好きじゃないかスペオペだし……ホラー文庫で出すわけにもいかないしな……。

 と、まかすこのことを考えているうちに幻術をやぶってボスモンスターにスナフキンの魔剣をプスッとして終了。なんとワンパンではなく三回もプスプスしたので超強かったのかもしれない。


 こうして四層を突破して塔から脱出したグインは鬼面の塔そのもものである鬼面神ライ=オンと最後の戦いをはじめるのであった、というところで次巻に続く。せめて倒してよ。明らかにいらない説明たくさんあったからそれ削ってこの巻のうちに倒してよ……。そもそもライ=オンさん鬼面らしいけど名前のせいでライオン丸としか思えないよ……オシシ仮面だよ……。あとなんかよくわからないビーム出すの萎えるからやめてよ……なんでゲームやらないのにそこの発想は悪い意味でゲーム的なの……まあこの当時、本編でもヴァレリウスが掌から上級魔道士ビーム出してて「あれ、グイン・サーガってそういう話だっけ……?」という気分にさせてくれたからな……。


 完全に筆の問題で迫力が足りず、展開の遅さもあって、正直面白くない。まあ、ぼくはゲームに浸かって生きてきたから、ゲームに出てきそうなモンスターに対して冷淡ですからね……。 世の中にはページ数を泣く泣く削っている作家が山ほどいるのに、ここまで大胆に無駄なページ数の使い方をしていると「チクショウ!純代チクショウ!」という気持ちになってしまう。まあ、売上が正義だからね。仕方ないね……。

 まかすことのつながりを考察するのに使うのが一番の楽しみ方なのだろうが、まかすこがあのまま放置されることがわかってしまっているいまとなっては考えるだけ無駄だしね……絶対厳密につなげようとしないで曖昧に考えてるし……薫はそういう女だよ……東京サーガという恥ずかしいくくりで同じ世界感にした今西良シリーズと矢代俊一シリーズですら整合性がとれないんだもの……。


 しかし、このタコ様はホントないわ……絶対一升瓶持ってホロ酔いだよ……

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