253 真・天狼星 ゾディアック 5
1998.05/講談社
2001.05/講談社文庫
<電子書籍> 有
【評】 う
● ろくろを回すタイプの犯人登場
殺された牧村レオナはゾディアックの一味であり、裏切り者として処刑された。大介は自らの推理を裏付けるため、レオナの母校へとおもむく。そこで大介は、レオナのまわりに「ケイ」と呼ばれる美貌の青年が、二人存在していたことを知る。はたして「ケイ」とはゾディアックの「魔王」なのか――
被害者の地元に行って元カレのこと聞いたら事件が大進展の巻。古式ゆかしい松本清張式社会派ミステリか、あるいは事件の渦中で唐突に変な田舎に飛ぶ金田一耕助方式か。だが、被害者の郷里なんて警察が真っ先に行くに決まっているのに、大介が来るまでなにも誰も来ていないことで「本当にこの世界の警察無能だな」という気持ちにしかならない。金田一方式ならもっと意外な人間の故郷とかじゃなきゃダメだし、清張方式なら主人公が警察じゃなきゃダメでしょ……。
この巻、話が進んでいると云えば進んでいるのだが、とにかく大介が物思いにふけりすぎててかったるい。はじめはこれから派手にスケールアップしていくのかな、と思った事件も、全然新しい事件が起こらないで地味だし、『新・天狼星』の時点で敷いていた伏線や、チラ見せされていた真相の一片は、整合性の取れなさそうなものから次々と「あれは嘘だ」「それは別件だから関係ない」となっていくので、腰砕けこのうえない。
いや、一応「犯人に狙われている晶に知識を与えて危険な行動させないため」などの理由はついているんだけど、どう見ても後付の言い訳だし、理屈として成り立っていたところでミステリーとして落胆してしまうことには変わりない。それならいっそ言い訳せずに辻褄の合わない部分は存在しなかったかのように振る舞われた方がまだマシだし、初期の栗本薫はわりとそういうスタンスの作品が多かったんだけど、ネットなどで指摘の速度が上がってから、文章が言い訳がましくなってくどくなっちゃったんだよね……。
終盤でついに犯人と思しき美形が出てくるんだけど、これがIT企業の社長で、会うなり滔々と、これからの社会にネットがどれだけ重要か、ネットによって文明が革新を迎えるのだ、といったことを、具体例ほとんどなしで本当に長々と語りつづける。絶対にこいつ、話しながらろくろ回してるよ……。
2017年現在の視点で見るからか、そこで語られるビジョンにはまるで新しさも意外性もなく、具体性もないため、じいさん相手に適当な言葉を並べているインチキ実業家にしか見えない。どれだけろくろを回すつもりなのか。しかも美貌のわりに背はやや低く声は甲高いという設定のせいで、もう哀川翔にしか見えない。IT部門担当のインテリヤクザを演じる翔兄貴以外の何物でもない。「魔王」で「ヴェリィヴェリィビューティフル」らしいのだが兄貴ならしょうがない。
対する伊集院大介も「最近の若者ゲーム脳で現実を感じ取れてなくてやべえようちらの世代にはこんな犯罪なかったよこれからはサイコパスだらけになるよ」という考察を長々と演説していて、老害臭が凄いと思いました。(小学生並みの感想)
全体的に、時代遅れの人が「いや、まだまだわしは若い!」と若者向けのものに手を出した挙句、さっぱりわからないものの感性の老化を認められず「こんなのダメ。時代が悪くなった」と矛先を変えて最悪の印象を残す、あの感じに近いものがある。二十年近く経ってから読んでるからそう見えてしまうのかな……と思ったが、刊行当時に読んだときも寝言感があった記憶がある。
なにより、気がついたらもう五巻で「え、全然盛り上がってないけど次の巻で終わるの?」という、長い尺の生かされてなさが辛い。いくらでも時間はあるんだからと宿題をせず遊び呆けたまま八月三十一日を迎えるアホ学生のようだ。まあ薫の長編、全部そうなんだけどね……。
ともあれ、果たして大介はろくろ回しを止められるのか……緊迫の最終巻へ続く。
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