250 夢幻戦記 2 総司地獄変 下

1998.04/ハルキ・ノベルス

<電子書籍> 無

【評】 う


● またお前か


 十六歳となった沖田総司は日野の佐藤道場へ出稽古をつけにいく。そこで出会ったのはやたらと弁舌の立つ野心をもった薬売り――土方歳蔵であった。江戸では虎狼痢が流行するなか、土方はなかば強引に試衛館道場に転がり込んでくる――


 一巻から一気に四年の時が経ち、新撰組ものの中心人物、土方歳三の登場となる。

 新撰組ものといえば土方をどう描くかにストーリーの全体が左右されるといってよいほどの重要人物だろう。隊士一人ひとりのドラマはあるが、やはり「新撰組」という存在は土方が作り、守り、そして土方とともに滅んだものだからだ。

 さて、そこで『夢幻戦記』版の土方であるが、口が死ぬほどよくまわり、学はないが頭はよく、女にも男にもよくモテ、いまに大物になってやるという強烈な野心と自負心を抱えた美青年として描かれている。

 イシュトヴァーンじゃねえか。イシュトヴァーンの2Pカラーじゃねえか。おま、野心家のキャラクター像これしかねえのかよ。少しは変えろよ。これならいっそ同一人物にして『中原で殺戮王と呼ばれる俺が幕末日本に転生してしまった件』とかってタイトルにした方がまだ面白いわ!

 いや、まあ、いちおう、たいていの新撰組ものでめっちゃ強いことになっている土方が、この作品では天然理心流では中極意目録までしか記録が残ってないという史実をもとに「剣の腕はたいしたことはない」という設定が新しいと云えば新しいんだけど……。


 そんなわけでこの土方歳三、それなりに魅力的なキャラクターではあるのかもしれないが、あまりにもイシュトヴァーンそのまんまなため「それはもう聞いたことあるからいいです」という感じの発言ばかりが続く。しかも執筆時期の問題でイシュトヴァーンよりも自慢がたらたらと長くてキレがない。あるいは『グイン・サーガ』を一切読んだことのない人には新鮮に映ったかもしれないが、グイン読まずに夢幻読んでる人なんてどれくらいいたのかな……。

 そして一巻では沖田が山南さん山南さんいってて「山沖かあ~新撰組ものとしては珍しいカップリングだな」と思わせていたのが、土方に会うなりぐいぐいこられてクソビッチ沖田は流されるままに受け入れて「結局定番の土沖かよ!」という微妙な気持ちになる。


 とはいえ、まあ新鮮組ものだと土沖になるの仕方ないよね……という気持ちもあるので、あまり強くは責めまい。土方が登場するなり特に内容のない自慢話とビッグになってやるトークで何十ページも消費するのも、まあ重要人物だし許そう。

 で、中盤で虎狼痢が流行して、夢の中でそれが総司を狙った怪物の仕業であるとわかって「ははあ、今回はこの怪物と対決してその戦いになんか土方が関わってきて二人の絆が深まる的な話だな」とラノベ脳のぼくは思ったのですが、別に怪物と戦ったりはしませんでしたし、代わりになにかイベントが起きたりもしませんでした。特になにも起きずにだらだらと試衛館の日常を書いて、沖田が雑魚妖怪を見て「ワッ」って驚いて屋根から転げ落ちて、土方も実は雑魚妖怪が見えていましたってだけで絆が深まっていました。なにこの劇的でなさ……もっと二人でチャンバラとか超能力バトルとかちゃんとやってよ……。こんなストーリーの進まない話を半年に一度読まされても、次の巻が出るまで存在を覚えてるわけないじゃん……。


 つまらないとか内容がひどいとかではなく、二巻目にしてあまりにもなにも起こらず内容が薄く、読む理由が見出せない作品となっている。やっぱり新撰組ものなんだから一巻に一つくらいは山場になるチャンバラシーン入れにゃあかんと思うですよ、ぼくは……。いったいこの無内容さでなにが地獄変なんですかね総司さん……中盤辺りから引き伸ばしで話が薄くなるのはよくある話だけど二巻目からこれはあかんですよ……つまらないとか思うわけでもなく自然に読まなくなるパティーンですよこれ……

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