225 六道ヶ辻 ウンター・デン・リンデンの薔薇

1996.12/角川書店

2000.03/角川文庫


【評】うな


● レズは……レズはやめて……


 かつて良家子女の教育機関として名を馳せた青渓女学院が廃校となり取り壊しがはじまった。しかしその現場から三体の白骨死体が発見される。かつてこの学校に通い、大導寺一族の歴史から名を消された子女、大導寺笙子の残したノートが、その謎を紐解いていく――


 大正の女学校で百合。以上。

『パロスの剣』では、中世ヨーロッパ風の宮廷でレズだったが、それの大正版だ。それだけで完全に説明が終わってしまう。

 栗本薫のレズネタに関して「レズはやめて……やめてクレメンス……」という立場を一貫してとっている自分としては、本作もまた勘弁してクレメンスである。どうにも薫の描くレズというものは「私は宝塚の男役もやりたいしできる!」と心の器がちっちゃいちんちくりんが限りない無茶をして失笑ものになっているようにしか見えず、自称あどけない童女なんだから無理するなという気持ちにしかならない。


 が、近年、どうも男性向け漫画やアニメで百合ネタがキマシタワでいいですわゾ~らしいのだが、自分はほとんどの作品がまったくピンとこないのである。もしかしたら栗本薫のレズが下手なのではなく、ぼくのレズアンテナが人一倍鈍いのかも知れないと思いはじめてしまった。

 なので今作は正直いってものすごくつまらなかったわけだが、客観的に判断できているのか、自信がまったくないる。

 それに栗本薫のレズ小説という非常に狭いくくりの中では、今作が一番マシではあると思う。少なくとも女学校でエスしたかったという気持ちは伝わってきた。作者が栗本薫なせいで凛としたお姉さまがねちょっとしていたが、自称サバサバ系がサバサバしていないのはある意味リアルであるのかもしれない。

 よって、この作品の百合具合に関してはキマシタワーな人が読んでいいですわゾ~なのかどうかを判断していただきたい。


 まあ、そういうレズ作品としての評価は置いて物語の構造的に見ていくと、やはりとうてい褒められた作品ではない。

 この『六道ヶ辻』シリーズは前作の『大導寺一族の滅亡』が正史的ミステリーであったし、今作の出だしも廃校から謎の白骨死体の発見と、なかなかミステリーとしてキャッチーな導入となっている。

 しかし実際に読み終わってみるとミステリー要素はゼロであり、延々と不幸ぶったレズの語りが続いて終わりになったから唐突に心中するという薫の手癖だけでできたストーリーである。これにはすっかり参ってしまった。「え、なんだったのこの話?」と本気で思ってしまった。いま思えはやりたかったのは百合ごっこだけなので、ミステリー的なものを期待したのが間違いだったのだが、シリーズ二作目でミステリー完全に投げ捨てるとは思っていなかったのだ。

 この「『六道ヶ辻』はミステリー」という思い込みは後々にまで響き、「このシリーズ本当に何なの……?」という気持ちに何度もさせられたものである。

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