223 新・魔界水滸伝 銀河聖戦篇 4

1996.11/角川文庫


【評】うな


● 虚無った……


 敵対していた弟の竜二を目覚めさせた雄介は、第二銀河帝国の目的がとあるゲリラの救出であることを知った。謎の敵『エネミア』が惑星を覆い尽くそうとする中、雄介たちはそのゲリラと接触し、その正体に驚愕する――


 新になってから微速前進であった魔界水滸伝。

 しかし今巻の展開には胸躍らされずにいられない。

 なんと真の主人公が登場してしまうのだ。

 その名はシリン・レイ。安西雄介の子である。

 そう、旧魔界水滸伝全二十巻は真の主役が登場するまでの、親世代を描いた前幕に過ぎなかったのだ!


 えーと、どこに真の主人公と書いてあったのか、ちょっといま見当たらないんですけど、たしかどこかに書いてあったんですよ(記憶の改竄だったらすいません)。でもこの四巻のあとがきに「旧一巻から登場することが決まっていた重要キャラ」と書かれているので、とにかく超重要キャラなわけです。(追記:「ザ・スニーカースペシャル94年夏号 特集 あなたの知らない栗本薫」のインタビューにおいて、『魔界水滸伝』第三部の構想を訊かれ「雄介の息子が美少年に成長して主人公になっていくという予定でいます」と答えていました)

 全五部五十巻構想とぶちあげていた魔界水滸伝の真の幕開けがここに! これはもう興奮するなという方が無理というものである。

 シリン・レイのキャラも良い。あとがきに書いてある通り『11人いる!』のフロルに影響を受けているのだが、 性別が曖昧で勝ち気な美少女とも美少年ともとれるところに主役力を感じる。そしてまた、第一銀河帝国の王子セイと瓜二つであり、第二銀河帝国の王女セイヤのサイキック・ツインでもあり、と戦いの核心に一気に近づく存在でもある。

 かくして新たな舞台で戦う用意は整い、謎の敵『エネミア』との戦いや、洗脳されているかつての仲間の登場など、魔界水滸伝のトンデモ伝奇の楽しさと新のスペオペの壮大さ、双方が融合していよいよ見たこともない物語がはじる予感をまざまざと感じ、ワクワクせざるを得ない巻である。

 これからはペースアップして出していきたいというあとがきの言葉もまた胸をときめかせた。元来、ぼくは王道のグインよりもトンデモの魔界派だったのである。さあ、この物語はどんな見たことのない景色をぼくに見せてくれるのか。期待して待とうじゃないか!


 で、この巻で中絶しました。

 あんまりである。

 理由はまあ、色々あるのだろう。第一にあのヒット作の続編のわりにはまったく売れなかったのだろう。ぶっちゃけ一巻ごとに積み方が低くなっていくことに、田舎の高校生もなにかを察せざるを得なかった。角川お家騒動の余波もあったのだろう。もともと『魔界水滸伝』は角川春樹元社長にプッシュされて売り出された本であり、内容もいかにも春樹社長好みである。売れもしないのにその続きを出しつづける気概が角川側になかったのではなかろうか。

 しかし、栗本薫側にもこの作品をどうにかしようという気持ちがあったのかなかったのか、よくわからない。

 結局この後、角川春樹事務所より長編伝奇シリーズ『夢幻戦記』がはじまったわけだが、あれよりも魔界水滸伝を移籍するべきであったと思うのだが、不可能だったのだろうか? 結局その数年後、旧シリーズはハルキ・ホラー文庫で出し直されているわけで、角川が魔界水滸伝というコンテンツを必要としなくなっていたのは確かである。かといって角川と栗本薫の縁が切れたわけではなく、六道ヶ辻シリーズやホラー文庫シリーズを出している。

 栗本薫自身にやる気がなくなった、というのが一番自然な理由であるのだが、個人的にはこの四巻でけっこう乗っているように見えたので、それも少々意外に思える。本編のみならず、北斗多一郎の外伝を、今度は天草四郎篇をやりたいと今巻のあとがきで述べてもいる。本編はともかくお気に入りのホモカップルがいちゃいちゃするだけの外伝を書く気がなくなるとはあまり思えない。元がヒットシリーズであっただけに、続編は出せないが移籍もさせられない、という飼い殺しな状況であったのではなかろうかと邪推している。そんな状況が数年つづいて、すっかり書く気を失ってしまったのかな、と。


 しかし、それにしても惜しい。

 何度でも云うが、ぼくはグインよりもまかすこの方が好きだったのである。第二部の迷走ホモ展開や意外とフレンドリーだったタコ様には困惑したし、投げっぱなしエンドはどうかと思った。新に対しては「九十年代なかばにもなってスペオペかよ!」とは思ったし、またあちこちにホモ臭さがあるきな臭い人物配置だとも思った。

 しかし妖怪大戦争がスペオペになるめちゃくちゃな風呂敷の広げ方は予想がつかず、この先の展開がもっとも気になる栗本作品であった。第一銀河帝国のワープ装置カイザー転移がどう見てもパロの古代機械であったり、第二銀河帝国の猫頭の女王セイヤがアウラを想起させたりと、グインワールドとのつながりも気になった。

 なにより王道グインとトンデモ魔界、その両翼が揃っていてはじめて栗本薫であると思っていた。

 それがようやく面白くなってきたと思ったところでの中絶は無念というよりほかにない。この四巻での面白さを最初から出せていればもう少しは違ったと思うのだが……。

 多分書き続けていてもどのみち完結はしていなかったと思うし、内容もどんどんひどくなっていったとは思うのだが、それでもあと十冊、二十冊、魔界水滸伝の続きを見たかった。それが二十年経ったいまのぼくの、素直な気持ちである。

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